遊び心のあるヒゲデザイン 男装パフォーマー・ドラァグキングに聞く

 「ドラァグキング」。小芝居・お笑い・ダンスなどで、“男子あるある”を表現する男装パフォーマンスの名前です。

 パフォーマーたちは、もともとヒゲの生えない女性の体に生まれた人がほとんど。

化粧用アイライナー、舞台用コスメ、時には、自分の顔以外のところに生えた毛まで、さまざまなものを自由な発想で使って、お気に入りのヒゲをスタイリングしています。

 

 今回は、世界各地のドラァグキングのうち、ご自分のヒゲスタイルをお持ちの方々にインタビューしました。

 

Case1: Mo B.Dickさん

 まずは、アメリカの雑誌『Curve』表紙を飾り、ドラァグキングの歴史についてのWEBサイトも運営するモ・ビー・ディック(Mo B. Dick)さんです。

(撮影:Dave Morffy, 2015)

 

  1. あなたのヒゲスタイルについて教えてください。

 ロカビリー・ルック(※1)。

俺は、ロカビリーの世界に俺のスタイルを打ち立てているのさ。

リーゼント・ヘアには自分の髪かウィッグを使って、ヒゲは舞台用の糊と付け毛で作っている。

ゴーティ(※2)にスリムな口ひげを合わせて、モミアゲを長くしてね。

 

(※1 ロカビリー……エルヴィス・プレスリーを筆頭とする、1950年代に流行した音楽ジャンル)

(※2 ゴーティ……ヤギのようなあごひげのこと)

 

Q.人生初めてヒゲをつけた時の思い出を聞かせてください。

あれは1995年、11月のことだった。

自分の髪を切って、そいつをつけヒゲに使おうと思ったのさ。

それで、ドラァグ・クィーンをやってる俺の友達、Mistress Formikaの家に行って聞いてみた。

だけど彼女、つけまつげ用の糊しか持ってなかったんだよね。

ま、使えたけどさ。

 

で、ニューヨークのイーストヴィレッジにあるレズビアンバー、Meow Mixに行ったんだ。

男装で行くのは初めてだった。

途中で男たちとすれ違ってさ。

奴ら、俺を男だと思ったんだろうな、”Hey”なんて男同士の挨拶をしてきてさ。

女の姿でいる時は、だいたいなんとなくヤラしい感じで声をかけてきやがるのによ。

ニューヨークのストリートを男のペルソナで歩くってのは、ありゃ、ワイルドなフィーリングだったぜ。

な、やっと俺は、夜道でも安心して歩けるようになったんだ。

 

参考:モ・ビー・ディック オフィシャルサイト

http://mrmobdick.com/

インスタグラム

https://www.instagram.com/mrmobdick/

 

ドラァグキングの歴史を伝えるサイト「Drag King History」

https://dragkinghistory.com/

インスタグラム

https://www.instagram.com/dragkinghistory

 

 

Case2:TSOUSIEさん

 続いては、雑誌『BURST』表紙や連載、またクラブシーンでの活躍でも知られるTSOUSIE(ツージー)さんにお伺いしましょう。

Q.どうやってヒゲスタイリングしていますか?

写真のヒゲは東急ハンズで購入したプロピアの付け髭を装着しています。

以前から自分の顔立ちには絶対にヒゲが似合うという確信がありましたが本当に似合ってしまったので大層楽しかったです。

 

今後機会があれば、黒髪ロングのウィッグで全身レザーのバイカー野郎や、オールバックに撫で付けて『ゴールデンカムイ』の鶴見中尉(奉天会戦前)みたいなエレガント変態紳士の格好もやってみたいし、ヒゲ装着でセクシーなランジェリーを纏うのもcampで面白そうです。

若い頃から性差に捉われずやりたい格好をやってきましたので、これからも真面目に面白おかしく自由に楽しみたいと思っております。

今年は長年休眠していたセルフポートレート作品の制作も再開する予定です。

若い頃には頭でっかちに考え過ぎて表現出来なかった「頭パー」なアプローチにもトライ出来たらなと考えております。

私にとって“ヒゲ”は“ちょっと変わった趣向のメイク”みたいな感じです。

 

 

Case3: Oliver Branchさん

最後に、エレガントな英国紳士スタイル、“オリーヴの枝”という意味の名前を持つオリヴァー・ブランチ(Oliver Branch)さんにお話を伺いましょう。

Q.どうやってヒゲスタイリングしていますか?

 僕のトレードマークは、分厚いシェブロン・スタイルに整えたブラウンの口ひげです。

他にも、ご覧のように、口ひげを細くペンシル・スタイルに整え、下唇の下にも少し生やして、あごのラインをなぞるようにもみあげを延ばすこともあります。

 

僕のスタイルは、後期ヴィクトリア朝から、1930年代くらいまでのウエスタン・ファッションにインスパイアされています。

歴史こそが僕の男装を貫く大切な要素でして、振る舞いから口ひげに至るまで、すべてエドワード朝のジェントルマン精神に立脚しているのです。

総合的に申し上げて、アンティークな衣装、舞台芸術、そして色とりどりのドラァグ・キングたちが紡いできた長い歴史そのものが、オリヴァー・ブランチというペルソナを形作っているのですよ。

 

Q.人生初めてヒゲをつけた時の思い出を聞かせてください。

僕が初めてヒゲをつけたのは、高校2年生、「Into the Woods」という演劇で執事役を演じるためでした。

その時の僕は髪をブロンドに染めていたものですから、演劇用のコミカルで大げさな茶色い付けヒゲは似合いませんでしたが、それでも、ヒゲをつけてコメディを演じることがとてつもなく楽しかったんです。

 

それから僕は、様々なタイプのヒゲが、顔の印象をどう変えるのか実験していきました。

そうした実験が徐々に、ドラァグ・キングとしてのパフォーマンスに昇華されていったのです。

とても楽しかった。

目指す表現にぴったりのヒゲを見つける実験を、今までずっと、楽しんでいます。

ドラァグ・キングとして男装することで、僕は喜劇的であることができるし、境界線を安全かつクリエイティブに揺り動かすことができるのですよ。

 

参考:オリヴァー・ブランチ インスタグラム

https://www.instagram.com/oliverbranchdrag/

 

それぞれの思いをお聞かせいただきました。

プロのメイクアップアーティストの方にお伺いしたところ、昔は、犬や猪など動物の毛を一本一本植えたりしていたんだそうです。

現代は植毛技術を応用した超ナチュラルな付け髭から、ラメやパールをふんだんに使ったカラフルなヒゲメイクまで、ヒゲの世界も広く深くなっています。

 

自分のヒゲが好きな人も、好きになれない人も。

もともとヒゲが生える体に生まれた人も、そうでない人も。

たまには「生まれつきの自分」みたいなものから離れ、遊び心を持ってヒゲを楽しんでみたら、新しい発見があるかもしれませんね。

 

 


牧村朝子(まきむら・あさこ)

文筆家。右も左も本人。1987年神奈川県生まれ。著書「百合のリアル」「ハッピーエンドに殺されない」他。

twitter:https://twitter.com/makimuuuuuu