生き方を変える為の起業が失敗し詐欺に手を染めた理由

働き方
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生き方を変えることを決断するには、大変な勇気が必要です。
安全な場所を捨て、危険な事をしなければならないこともあるでしょう。
ここでは、それまでの生き方を変え、飲食店を起業した夫婦の話を紹介したいと思います。


彼らは老後は小さな飲食店を経営して、穏やかに生きていきたいと望みました。
そのささやかな望みの結果が、最悪の結果になってしまいました。犯罪をやってしまったのです。
その罪名は「特殊詐欺」、通称オレオレ詐欺ともよばれる罪です。


特殊詐欺の罪状は厳しく、執行猶予すら付かないことがほとんどです。
被告は人の良い初老の男性ですが、そのような重い罪を犯したのは理由がありました。
その理由もやはり「人が良すぎたから」というものです。


裁判を通して見えた、被告の人生。
裁判官が「あなたはこんなところに立つ人では無い」と言った、真面目で誠実な人間の落とし穴とはなんだったのでしょうか。

気がついたら特殊詐欺の片棒をかついでしまった男の人生

被告人は60代の男性。
パンフレットなどの印刷業を営んでいた経営者でした。
いかつい体にやわらかな表情が印象的で、とても特殊詐欺をする人には見えません。


特殊詐欺、通称オレオレ詐欺で捕まるのは「受け子」と呼ばれる末端だけです。
受け子は被害者から実際にお金を受け取る役目で、捕まっても詐欺グループから手厚い弁護があるというのがよくある特殊詐欺裁判の流れです。


しかし、今回の被告は弁護士も国選で、役目も受け子ではありません。
被告は詐欺グループの末端の、さらに使い捨てのような存在でした。


被告が行った行為は、通帳を作り、私書箱に言われたとおりに郵送したというもの。
たったそれだけですが、法律上では詐欺罪に問われます。
通帳は特殊詐欺の口座として使われ、被告は逮捕されてしまったのです。


被告の犯した犯罪の背景には、追い詰められた現状がありました。
起業した飲食店の撤去費用である40万円のお金が必要だったのです。
その為に、特殊詐欺の片棒を担いでしまったのです。

老後の夢の起業は失敗し40万の撤去費用を求められる

自分の印刷会社を「潰す形で閉鎖した」と裁判で被告は語ります。
そして、夢だった喫茶店の経営に乗り出しました。
それまでの生き方を変えて、まったく新しいジャンルへの挑戦をしたのです。


被告は妻と2人で、ささやかに暮らしていけるような、そんな生活を望みました。
子供はすでに独立していたので、老後をおだやかに過ごすだけの収入があれば良かったのです。


印刷業から飲食業へ、未知の分野への挑戦に、被告は人を頼ります。
Aという知人の言われるがままに資金を調達し、Aが紹介した場所で店をオープンしました。
Aがオーナーで、被告が雇われ店長という形です。


被告はそれまでの生き方を変え、飲食の世界に飛び込みます。
しかし、夢の喫茶店は2年ほどで閉店してしまいます。


最初に借りた資金が底をつき、継続するのは不可能になってしまいました。
そこに追い打ちをかけるように、オーナーであるAが被告に40万円を請求します。


その内訳は撤去費用80万円の半分と言うことでした。
Aは場所を紹介した責任もあるからと「半分やるから、後はお前が何とかしろ」と言って逃げてしまいます。
ただ、被告にとって40万のお金は、とても用意できるものではありませんでした。


本来被告は雇われ店長なのですから、経営責任はオーナーであるAにあったはずです。
店舗の撤去費用80万円は、本来であればAが支払うべきでしょう。


ですが、ここでも被告の人の良さが悪いほうに出てしまいました。
なんとか金を作ろうと、撤去費用の残り40万円の金策に走ります。
親戚からの借金は不可能でした。
印刷会社を潰した時に、すでに迷惑をかけてしまっていたのです。


そこで、ネットなどを使ってお金を貸してくれる人を探しました。
見つけたのは、闇金融業者です。


闇金業者は「貸してもいいけど、収入がないなら本来は難しい。そこで、やってもらいたいことがある」と被告に持ち掛けます。

苦しんでいる人に手を貸す特殊詐欺グループ

闇金業者に「通帳を送るだけでいいから」と言われ、被告は言う通りにしてしまいます。
郵便局や銀行で被告名義の通帳を作り、それを私書箱に送ってしまいました。
私書箱の名義は知らない人でしたが、闇金業者は「一時的に友達のところに送るだけだから」と言い訳します。


通帳を作り、郵送する。被告が行ったのはたったこれだけのことです。
ですが、通帳は詐欺に使われ凍結、被告は逮捕されてしまいます。
私書箱の名義人も被告と同じように「誰かに頼まれて」詐欺の片棒を担いでしまった人です。


特殊詐欺の裁判では、実際に詐欺を行った人、計画した黒幕はめったに捕まりません。
被告のような、末端だけが罪をかぶります。
そして、どんなに末端でも特殊詐欺の罪は重いのです。起訴猶予になることはないのです。


老後は生き方を変えて、おだやかに過ごしたい。
小さな喫茶店を経営して、ささやかな老後を過ごしたい。
そんな願いをかなえようとした被告でしたが、起訴され、法廷に立つことになってしまいます。


裁判で裁判官は「どうしてこんなことをしてしまったのですか?」と被告に聞きます。
被告は「せっぱつまっていたから」と答えました。


裁判官「オレオレ詐欺が社会問題になっていると、あなたなら分かっていたでしょう?」


被告「・・・はい」


裁判官「今日は奥さんは?」


被告「仕事で来れませんでした」


裁判官「あなたはこんなところに立つ人では無いでしょう」


被告「・・・」


特殊詐欺の裁判では、本当の悪人は登場しません。
詐欺グループは裏で指示するだけです。
裁かれるのは被告のような、お金に困った一般人がほとんどです。
彼らは本来なら、法廷で被告人席に立つような悪人ではありません。


逆に、被告は人が良すぎたのです。
でなければ「撤去費用の残り40万払え」と言われても「そんなことは知らない」と言ってしまえばそれまでだったはずです。


良い人すぎて、闇金融にまで手を出し、言われたとおりの金を工面しようとした被告。
生き方を変えようとしただけなのに、詐欺の前科まで付いてしまいます(1年6か月、執行猶予付き)。良い人というだけでは、何かが足りなかったのかもしれません。

まとめ:生き方を変えるには

ささやかな老後の夢をかなえるべく、喫茶店を開いた夫婦の話でした。
飲食店の開業自体は、やろうと思えばコストのかからない起業です。
Aという人物に頼らないで、被告自身が動いていれば、結果は違うものになっていたはずです。


起こってしまったことに対して「たら、れば」を言い出せば切がありませんが、他にもこのようなポイントがあったと思います。


・ちゃんとしたマーケティングをする会社に相談したら
・なるべくコストをかけないで自分でやっていたら


たった40万円の為に、特殊詐欺の前科まで背負うことは無かったはずです。


そして、60歳を過ぎても、就ける仕事は沢山あるはずです。
おそらく、被告は経営者であることを捨てられなかったのかもしれません。


プライドが邪魔をして、その生き方だけは変えられなかった。
Aに頼って喫茶店経営に乗り出してしまった理由はそのあたりにあるのでしょう。


生き方を変える時には、自分で考え、自分で責任をとり、自分で行動する勇気が必要なのではないかと感じた裁判でした。

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野澤 知克
プロフィール:自営業(飲食店)を営みながら、ふとしたきっかけで裁判傍聴にハマった傍聴ライター。現在は専業ライターとして、裁判所に通う毎日。事件を通して人間の「生き方」と向き合ってます。

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