言語交換サイトで出会った外国人が彼女になるまでの話

就活における英語面接に備え、ネットで言語交換パートナーを探していた大学3年生の僕。
いくつものメッセージを受け取るが、興味を惹かれたのが、謎のポーランド人の女の子。
Lineでのやり取りから対面を果たし、デートを重ねた結果、僕は彼女に告白されることになる。

言語交換サイトで出会ったポーランド人の女の子

当時大学3年生だった僕は、TOEICで935点を取得していたこともあり、外資系企業への入社を目指していた。
だが、スピーキングとなるとまだまだだった。


そのため英語面接に備え、少しでも英語を話すのに慣れておきたかった。
そこで僕は無料の言語交換サイトで、英語でやり取りできる外国人を探すことにした。


サイト登録にあたり、プロフィール記入が必須のようだ。
登録写真はとびきり写りの良いものを選び、プロフィールは基本的なことを英語で書いた。
東京の大学で文学を専攻していること、好きな映画や本、言語交換パートナーを探していることなど。


登録してすぐに、イタリアやフランス、メキシコなど様々な国からメッセージが届いた。
話し相手を見つけるには、積極的にメッセージを送ることが重要みたいだ。


自分で書くのは気恥ずかしいが、メッセージの大半は僕の外見を褒めるものだった。
外国は美の基準が違うとはよくいわれるが、僕の顔は欧州と中南米で好意を持たれるみたいだ。
また、日本の漫画やアニメ好きの外国人からのメッセージも届いた。


確かに趣味の欄に漫画と書いたが、僕が読んでいたのは『ナルト』」と『ワンピース』だけ。
日本カルチャー好きのメッセージに目を通すときりがないので、アニメ・漫画に興味なしと書き直した。


面白いことに、プロフィールを少し変えるだけで、アプローチしてくる人々が大きく変わる。
たくさんのメッセージの中から、僕の興味を惹いたのが、日本文学好きのポーランド人ジェーン。


顔を判別できる写真はない。トップ画は、カメラに背中を向けて美しい山を見ている女性。
英語練習が目的だから、別に顔は重要ではない。
話が合いそうだと思い、僕は彼女に返信することに決めた。

運命の歯車は行動によって動く

文学という共通趣味のおかげで、僕とジェーンはすぐに気が合った。
彼女が好きな作家は、村上春樹と三島由紀夫。
村上春樹の作品は『ノルウェイの森』しか読んだことなかったが、それが彼女のお気に入りだった。


唯一困ったことは、彼女は創作も好きで、「今の気持ちを詩で送りあおう」と提案してくることだった。


「英語で詩を作るなんてできないよ」と言っても、彼女は聞く耳持たず。
僕は何とか詩を作ったが、あまりの出来の悪さにすぐに記憶から抹消したし、覚えていても言うつもりはない。
彼女はいくつもの詩を送ってくれたが、鮮明に覚えているのは、初めて送ってくれたものだけ。


花束を抱える男を見た
彼は永遠の愛を伝えるのかもしれない
花束を見ると、私は葬式を思い出す
死が二人をわかつまで


僕達はサイトのメッセージ機能からLineで会話するようになった。
英語が堪能な彼女は次々にメッセージを送る一方、僕は返答を考えている間にメッセージが来るから、次第に”I see”や”Me too”などの相槌ばかり打つようになった。


ある日、ジェーンは「私と話していて楽しい?」と言った。
彼女もまた、僕が素っ気ない相槌ばかりしていることに気づいていた。
正直に、会話のスピードについていけないことを告白すると、「もっと早く言ってよ」と怒られてしまった。


それからは僕が返答し終わってから、彼女はメッセージを送ってくれるようになった。
また、僕は彼女のアドバイス通り、フレーズ単位で英語を暗記するようにした。
使えそうなフレーズはメモに残し、ジェーンとの会話で実際に使う。
これを繰り返していると、いつの間にか彼女のテンポについていけるようになった。


ある日、会話の中で彼女が高田馬場駅周辺に住んでいることが分かった。
僕は池袋に住んでいると伝えると、彼女は驚き「会いましょうよ!」と言った。
正直なところ、顔を知らない外国人と会うことに少しばかりの不安を覚えたが、迷ったらイエスと言うのが僕の信条だ。


待ち合わせ場所は池袋駅東口。
早めに到着し、手持無沙汰にしている僕の目の前に、突然女の子が現れた。
赤みがった黒髪に真っ白の肌、曇り空を思わせる灰色の瞳。彼女がジェーンだった。

ジェントルマンが嫌いな女性はいない

「こんにちは。シュンよね?」、そう言って彼女は僕の頬と彼女の頬を合わせた。
これがポーランドでの挨拶だそう。


「Lineでメッセージ送ったのに見てないの?」
「スマホ持ってきてないんだ。君と時間を過ごすのに、必要ないと思ったからね」
「いつも思ってたけど、あなた変わってるわね」、彼女は呆れたように笑った。


僕は映画で学び、この日のために暗記した”Let’s have a coffee and chat(コーヒー飲みながら話そう)”を流暢に言い、カフェへ向かった。
コーヒーを頼んだところで、ジェーンは「あなたってモテるでしょ」と唐突に言った。


話しを聞くと、ハイヒールを履いた彼女のために腕を差し出したり、椅子を引きコートを脱ぐ手伝いをするエスコートが良い印象を与えたようだ。


昔から、いわゆるレディーファーストな振る舞いは自然とできた。
誰かに教えてもらった覚えはないが、アメリカの古い小説ばかり読んでいたおかげかもしれない。


この日、僕はアルバイトの予定があったから、カフェで2時間ばかりお喋りしただけ。
彼女は好きな村上春樹作品を熱心に語ってくれた。
僕は三島由紀夫の『金閣寺』の方が実物よりも美しいと伝えたのを覚えている。


別れ際、彼女に「また会いましょう」といわれ、僕はいつでも空いていると告げた。


「女の子にデートを誘わせるものじゃないわ」、彼女は不満げにいった。
「じゃあ、僕のバイトが終わったら会おう」


「あなたは本当に変わってる! 真剣な顔して、面白いこと言うんだもん」
「わかったよ。一週間後、同じ時間、同じ場所で君を待っているよ」


次のデートの時、僕は駅構内にある小さな花屋で一輪の花を購入した。
「今日はお葬式じゃなくて、デートだから一輪だけ」といってプレゼントすると、彼女は笑って受け取ってくれた。


僕達は様々な場所に出かけた。
神保町で古本巡り、横浜の赤レンガ倉庫、品川水族館など。


特に彼女のお気に入りは、池袋北口にある日本酒の取り揃え豊富な居酒屋で、様々な種類の日本酒を飲むことだった。


いつものようにデートを終えて、山手線の改札口を通り過ぎる彼女を見送るだけのある日のこと。
彼女は僕の方を向いて立ち止まっていた。


「どうしたの?」
「私、あなたに恋しちゃったみたい」、僕は彼女の目を見つめていた。
灰色の瞳が輝いて見えたが、涙が浮かんでいたのかもしれない。

「僕も君が好きさ。君と話すのは楽しいしね」
「つまり?はっきり言ってくれないと分からないわ」
「君は僕のガールフレンドさ」


その日、僕達は池袋北口へつながる階段を上り、酔っ払いが吹かす煙草の煙にあたりながら、20分ほど歩いて僕の自宅へ向かった。
こうして僕は、ジェーンと付き合うことになった。

愛に人種や国籍は関係ない

僕がジェーンと交際した期間は約4か月。
僕は昔から言葉で愛情表現ができなかった。


ジェーンに対しても、「アイラブユー」の一言がどうしても言えなかった。
「あなたは私のことが好きだけど、愛してはないわ」と言われ、僕と彼女の関係は終わった。


僕は外国人と付き合いたかったわけではない。
好きになった人が外国人だっただけだ。


「外国人だから」という理由だけで付き合っても上手くはいかないだろう。
価値観や文化は異なるが、結局は人間同士の付き合いだから。


その上で、僕が外国人と交際できた理由は、コミュニケーションがとれる語学力と行動力だと思う。
もし言語交換サイトに登録していなければ、もし対面するのを断っていたら、ジェーンと付き合うことはなかった。


彼女は僕の紳士的な部分に惹かれたといったが、彼女が敬愛する村上春樹の言葉を借りるなら、別れた女性、つまりジェーンについての物語を書く僕は、もはやジェントルマンではない。

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奥川駿平
アルゼンチン在住のフリーライター。アルゼンチン人と結婚するため、大学卒業後の2015年アルゼンチンへ移住。2017年よりフリーライターとして活動。マテ茶と伝統炭火焼肉アサードをこよなく愛する。

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