魔性の女に弄ばれた若い愛人男の哀れな記録〜マノン・レスコー〜

私をロンドンのメンズストリップショーに連れて行ってくれた小夜子さんには愛人がいた。
そして、その愛人はお喋りだった。
彼は苦しい恋に悶える己の心情を、何一つ胸の内に止めておけないのだから始末が悪い。


「小夜子がオフィスに初めて現れた時、衝撃を受けたね。あの顔!あの目!あの姿!分かるだろ?」


「そうね。小夜子さんは綺麗だわ。綺麗って言葉では片付かないくらいに」


「だから俺は、小夜子が初出勤してきた日はずっと浮ついちゃって、仕事が終わるなり走って追いかけたんだ。そして丁度バス停のところで捕まえて、ゼイゼイ言いながら『ちょっとパブで一杯飲まないか』って誘ったんだよ。そしたら間髪入れずに断られてさ。
『あぁ、そりゃそうだ。彼女は既婚者だしな』とガッカリして頭を垂れてたら、『今夜は都合が悪いのよ。明日だったらいいわ』と言われて、舞い上がったね。とにかくさ、俺たちはそんな風に始まったんだ」


哀れなトーマス。
私がその打ち明け話を聞いた時点で、彼はかれこれ2年に渡り小夜子さんの虜だった。


「初めて小夜子の中に入った時さ、俺3秒もたなかったんだよなぁ。入った瞬間にイッちゃって。だって、あの顔見てるだけで最高潮に達するんだから仕方ないよ。あの小夜子の顔がだよ、目の前にあるわけじゃん。
3秒もたないなんて信じられる?普段の俺ならそんなこと絶対にありえないんだけど、小夜子とだけは違うんだよ。彼女は他の女とは違うんだ」


男の人にとっても、セックスはその相手にどれほどの情熱や愛情を感じているかによって、快楽の程度やオーガズムが大きく左右されるのだということは、当時の私にとって新鮮な発見だった。
そして、同じ職場で働く仲間にそんな秘密を漏らすトーマスのバカさ加減も発見だった。


小夜子さんは既婚者なのだ。
そんな話を軽々しく同僚にしていれば、パート先で不倫しているビッチだと悪評が立つのは避けられない。


愛しているなら相手の立場を思いやれないのだろうかと思うが、私の知る限りにおいて、イイ女を抱いて黙っていられる男はほとんど居ない。


「まあ、今はもう俺たち、そういう関係には無いんだけどね。卒業したっていうか、乗り越えたっていうか。俺と小夜子はソウルメイトなんだよ。もっと深いところで繋がってるんだ。
俺も小夜子も昔バンドやってて音楽を愛してるからさ。話が合うし、分かり合えるし」


(ま、3秒もたないんじゃな。物足りな過ぎてヤラせてもらえなくなっただけだろう)
と思ったが、私はそれを口にも顔にも出さなかった。


トーマスはベッドの中のことまで赤裸々に話してしまう意外にも、同僚たちの前でしばしば醜態を演じた。


職場の飲み会では多量の酒が入るせいかタガが外れ、小夜子さんがちょっと他の男性スタッフと親しくしただけで嫉妬に狂い、「お前、小夜子に触るんじゃねぇ!」と同僚を殴り飛ばしてしまうのだ。
しかし、そんな時にも小夜子さんは顔色一つ変えなかった。


私は一度、小夜子さんに焦がれるあまり知恵と理性とは決別してしまったらしいトーマスが可哀想になり、


「小夜子さんは、トーマスのことをどう思っているの?」


と、ストレートに聞いてみたことがある。
しかし、やはり彼女は表情を動かさなかった。
ただ、その美しい口元にはほんのりと満足そうな笑みが浮かんでいたように見えた。


「私たち純粋にお友達なのよ。音楽の話が合うの。それ以上の関係になったことないわ」


感情が読み取れない彼女の美しい顔とクールな態度から、私は何も推測することができなかった。
この人は何を考えているのだろうと不思議だったが、何も教えてくれない態度を責めることもできなかった。


ただ、


「こんな風に美しくセクシーに生まれつくと言うことは、いったいどんな気持ちがするものなんだろう。そして、存在するだけで他人の想いをかき乱すと言うことは、どんな風にやっかいなのだろう」


と思っただけだ。


「私とトーマスの間には何もない」という小夜子さんの言葉は、もちろん嘘だ。
私たちの就業時間は遅く、ヒースロー空港から最後のフライトが成田へ飛ぶのを見送って、帰途に着く頃には夜9時を回っている。


彼らは仕事がはねたその時間から、二人して繁華街へ遊びに行ったり、車の中で二人きりで居る様子をしばしば目撃されていた。


日付が変わってから帰宅する妻に、夫であるリチャードは何を思っていたのだろう。
美しい妻の貞節を疑っていただろうか。


それとも、自分も時には深夜に及ぶストリップショーの仕事で女の子たちと騒ぎ乱れて帰るのだから、互いの貞操については言及しないことにしていたのだろうか。
夫婦仲はとても良く、リチャードはいつでも妻に愛の言葉を惜しまなかった。


ある夜、トーマスが小夜子さんと二人きりで車内にこもっている最中、リチャードから電話がかかってきたそうだ。


「奴はしょっちゅう会話の途中に「I love you」って入れやがる。そしたら、その度に小夜子も「I love you ,too」って返事するんだよ。26回だよ?!俺、小夜子がそう言う度にイライラして、思わず数えちゃったさ。そしたら全部で26回!
信じられないだろ?俺の隣で、小夜子はあいつに26回も「I love you ,too」って言ったんだぞ!
はらわた煮えくりかえってたらさ、彼女は『仕方ないでしょ。私はそう言わなきゃいけないのよ。分かってくれなくちゃ』だってよ!どう思う?」


怒り狂いながらも泣きだしそうなトーマスから
「聞いてくれよ!小夜子が酷いんだ!」
と電話で叩き起こされて、時計を見たら深夜2時を過ぎていた。
一人の女のことしか考えられない男は他人の迷惑にまで考えが及ばないらしい。


例えどんなに傷つけられようとも、トーマスは小夜子さんから離れられなかった。
プロポーズしたのも一度や二度ではない。


「小夜子に『あなたを愛してるけど、夫を愛すほどには愛してないの』って言われて、またプロポーズを断られたよ。何でだよ?リチャードはろくに働けもしない男だぞ。内臓疾患持ちで、薬の副作用のせいで躁鬱病ときてる。
あんなのと一緒にいたって生活の苦労が絶えないだけだろ?俺の方が彼女にもっとマシな暮らしをさせてあげられるのに、どうしてなんだ?」


と落ち込む彼の話を聞きながら、私は
「あんたもリチャードに比べてマシとは言えないからじゃない?」
という本音を言わなかった。


トーマスも独り身ではなかったからだ。
彼は自分より一回り近く年上のガールフレンドと同棲しており、彼女が所有するマンションにタダで住まわせてもらっていた。


その彼女もやはり日本人で、しかも才色兼備のキャリアウーマンだったが、それはまたいつか別の機会に話すとしよう。
ともかく、年上の女の家に寄生しながら他所の人妻を追いかけている男がマシなはずないだろう。


私には小夜子さんという人がよく分からなかった。
彼女の美貌と滴るような色気には魅了されたが、もしも私が彼女のように際立って美しく生まれついていたなら、その魅力はもっと有益に活用しただろう。


ただし、分かったこともある。
小夜子さんが決して自分を与えようとしないのにトーマスを手放そうともしなかったのは、「支配」がもたらす快楽を楽しんでいたかったのだということだ。


傲慢な男が自分への欲情の虜となって、喜び、傷つき、涙して苦しむ様を眺めるのには得も言われぬ喜びがある。
自分を崇拝する他者を自分の思うままに弄ぶ楽しみは、そう簡単に手放せるものではない。


その後もトーマスは、
「もう、うんざりだ。あんな女のことは忘れる!」
という決心と、
「やっぱり俺には小夜子しかいない」
という激情の間で延々と揺れ続けた。


そうこうするうち同棲していたガールフレンドからは愛想を尽かされて家を追い出されてしまい、行く当てのなかったときに出会った女性と付き合い始めたかと思ったら、あっさりと結婚した。


報われない恋に疲れ果てた彼は遂に小夜子さんから離れ、穏やかな幸せに満ちた家庭を築こうと数年努力していたが、結局は上手くいかなかった。


せっかく小夜子さんと別れても、思い出に縛られて他の女性の中に彼女の面影を求め続ける限り、一生幸せにはなれないだろう。


アベ・プレヴォーの「マノン・レスコー」は、男を破滅させる宿命の女を描いた最初の文学作品である。
貴公子デ・グリュウはマノンに一目惚れして駆け落ちするが、享楽的で不実なマノンは彼を裏切り続ける。
それでもグリュウは彼女の魅力に抗えず、自ら進んで不幸に身を投げてしまうのだ。


美貌と魅力で男を翻弄し、破滅へと導く魔性の女にはいくつかのタイプがあるが、「魔性」と聞いて私が真っ先に思い浮かべるのは小夜子さんである。


トーマスに限らず、当時小夜子さんに悩殺された男たちは揃って
「小夜子は少女のように純粋な女なんだ」
と称賛した。


確かに彼女は純粋な快楽主義者だった。
問題なのは、その純粋さも美貌も永遠の味方ではないということだ。


その後の小夜子さんは、他の多くの「若い頃には美しかった」女たちと似たり寄ったりの人生航路を辿った。
すなわち若さを失うと共に神通力も失ったのだ。


私が彼女と最後に会ってから、十数年の時を経た後に彼女の近況と近影を知る機会があったが、かつての圧倒されるほどの美貌は、貧しい暮らしと、長年の不摂生が祟った末の病気と、失われゆく若さの魅力を知性と気品で補う努力をしなかった為にすっかり輝きを失っていた。


女は20代で見目麗しくても、30代で強くなく、40代で賢くなければ、最早美しいとは言えないのだ。

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マダムユキ
ネットウォッチャー。最高月間PV40万のブログ「Flat 9 〜マダムユキの部屋」管理人。
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