「早く死ねばいいのに」 冗談を理解できず親族を殺害した青年の生き方とは

殺人事件の裁判を傍聴しました。

青年が彼の曾祖母を殺害してしまった事件です。

ここで青年は、「良いことをしたと思っています」と発言しました。

 

老人は税金を使って若者を苦しめているから死んでいいと本気で思い、自殺の道連れにしようと夜に曾祖母の家に入る青年。

彼の抱えている病は誰にも理解されないまま、裁判員裁判にかけられてしまったのです。

 

失敗ばかりの青年の人生

 

殺人事件の法廷に入ると、テレビカメラが設置してあり傍聴席は満席に近い状態です。

裁判員裁判で行われるので、裁判官3名の横に10人ほど裁判員が座りました。

裁判員裁判では法知識のない裁判員に事件の説明をするため、検察の資料もわかりやすくなります。

 

 

それはつまり、実際に起こった殺害現場の証拠を提示するということです。

民間人である裁判員は一方的な暴力の現場写真を見せられて戸惑った表情でした。

傍聴席にも一部証拠が開示されるのですが、実際に使われたと思われる凶器、被害者の着ていた衣服などがモニターに映し出されました。

 

被告を見ると殺人者という印象は全くありません。目が綺麗な青年です。

年齢は25歳。彼が曾祖母を殺害してしまったのは、それまでの人生が失敗続きだったからです。

 

青年は大学受験に失敗し、実家から税務署のアルバイトを始めます。

そこで尊敬すべき職員に出会い

「自分も税務署で働きたい!」

と公務員受験を決意しました。

札幌に家族で移り住んで公務員予備校で勉強を始めるのですが、出願日を忘れてしまいます。

 

「公務員以外は面接しなかったの?」

と言う検察の質問に対し、

「公務員か事務以外は考えられませんでした」

と答えています。

事務の仕事の面接も受けていましたが20社ほど受けて全滅してしまいました。

 

この失敗に絶望してしまった青年は、部屋にひきこもるようになりました。

自殺念慮にとりつかれ、餓死をしたいと望むようになります。

 

死に方を探して殺人を思いつく

 

青年の曾祖母は社交的な人物で

「ちょっと口が悪いけど皆に愛されていた」

と青年の母親が証言しています。

お金のことをよく口にするので、親族は冗談で

「早く死ねばいいのにね」

と笑っていました。

 

青年とは小さいころからの付き合いで、小さいころの青年はお鍋を返しに曾祖母の家まで行くなどしています。

同じ話を何度もすると言われていた曾祖母の話をじっと聞いていた青年。

「私の話を聞いてくれる」

と曾祖母は青年のことを信用していました。

親族内で青年は

「ちょっと変わった考え方をする子」

というだけで、特別危険人物ではありませんでした。

 

 

青年は証言台に立ち、殺害の動機を話し始めます。

 

青年「死にたいと思って、最後に良いことをしようと思っていました」

検察「他の死に方は探さなかったの?」

青年「首吊りは事故物件になるし、飛び込みは迷惑になるから餓死やハンガーノックによる自殺を計画しました」

検察「なぜ殺そうと思ったの?」

青年「一族郎党皆殺しにしてから死のうと思いました」

検察「それはなぜ?」

青年「話したくありません」

検察「なぜ、被害者を殺害したの?」

青年「老人は税金を使うし、若者の負担になるから殺してもいいと思ってます」

検察「あなたは老人は死ね、悪人は死刑といってますね、じゃあ、あなたは死刑になる?」

青年「自分は良いことをしたと思ってます」

 

この言葉を聞いて寒気がしました。彼は本当にそう考えていたのです。

 

命乞いをしたでしょ?と検察が詰め寄る

 

青年は3日間、270キロを自転車で移動して曾祖母のいる地元まで行きます。

ハンガーノックで死にたいと思っていましたが、それは叶わず生きて地元の曾祖母の家まで到着してしまいます。

時刻はすでに夜になっていました。

 

 

手袋をはめて進入し、台所の包丁で被害者を殺害。

被害者の手には防御創がありました。

青年は

「すでに曾祖母は寝ていて、真っ暗な中包丁で刺しました。それから自殺しようと思ってもできなかったです」

と証言します。

 

それに対し検察は

「状況から考えて、被害者は起きていたと考えられます。突然やってきたひ孫に料理を振る舞った形跡があり、寝室はいつも寝ている状況とは異なっています」

と裁判員に説明します。

 

それから青年に向かって

「被害者は起きていたでしょ?命乞いをしたんじゃないですか?」

と詰め寄ります。

 

「答えたくありません」

と青年は黙秘しました。

 

もし、検察の言う通りならば、とても残忍な行動と捉えられます。

被害者は90歳、夜、突然訪問してきたひ孫に得意料理を振る舞い、そして殺害されたのです。

結局この検察の説は採用されませんでした。

「被害者が起きていた確固たる証拠がないから」

という理由です。

 

良いことをしたと思っていると裁判員の前で証言する青年

 

専門家も証人として出廷します。

「青年には広汎性発達障害の疑いがあり、その症状の1つとして『他人の冗談を冗談として認識できない』というものがある」

と証言しました。

 

ただし

「青年の考え方は個性の範疇であり、犯行時に障害の影響はない」

とのことです。

また、一部自閉スペクトラムも認められるが、障害ではないと判断されます。

 

 

判決では求刑16年に対し、10年の実刑判決でした。

25歳の青年は満期まで刑務所に入ると35歳で出所することになります。

「出所後は社会復帰できる年齢であるべきだ」

という弁護士の意見が通った形になりました。

 

青年は出所後

「プログラマーになりたい」

と言います。

 

青年は最後に

「精神保健福祉士によるカウンセリングやサポートを受け、一般常識とストレス耐性を身に着けて社会に復帰する」

計画を説明しました。

青年にとって一般常識とは、その様に努力して獲得しなければならないものなのです。

 

裁判官は

「この事件の背景には、被告の障害を周囲が気づいてあげられなかったことがある」

と最後に締めくくります。

 

最後に:発達障害と冗談

 

「冗談だよ!本気にしちゃった?ツッコんでよー」

と言われたことが無いでしょうか?

今回は広汎性発達障害の特徴の1つである

「他人の冗談を本気にしてしまう」

ことが悲しい事件を生んでしまったようでした。

 

青年のように、軽めの病や障害を誰からも認知されず、自覚できないまま成長する人がいます。

一般常識を身に着けて、冗談を言い合うことができるのは誰でもできることではありません。

青年は最後まで老人を殺害することが悪いことであると理解できないようでした。

 

青年と似た考え方はネットでよく発見されます。

その代表的なのが「老害」という言葉でしょう。

若者達から税金を奪って老人たちは楽をしているという、過激で一方的な考え方です。

 

青年はそれを疑うことなく取り入れてしまったと考えられます。

そして青年の思考は誰にも知られることなく、最悪の行動を起こしてしまったのです。

 

他人の考えが理解できないからと言って、無関心でいるのは良くない事なのではないかと思いました。

間違っている人を理解できなくても

「それは間違っているよ」

と言える人でありたいです。

 

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野澤 知克
プロフィール:自営業(飲食店)を営みながら、ふとしたきっかけで裁判傍聴にハマった傍聴ライター。現在は専業ライターとして、裁判所に通う毎日。事件を通して人間の「生き方」と向き合ってます。
Twitter:@hatinoyado