「アナと雪の女王」と「かぐや姫」に見るジェンダー論の変遷

ここは六本木のとある会員制バー。

30代から50代の働き盛り、遊び盛りの男女が集まり、夜毎楽しい時間を過ごしています。

そんな紳士淑女と密に接してきた元スタッフである私が、「モテる男」とはどういうものかについて、バーで見てきたこと、感じてきたことを基にお伝えします。

 

今回のテーマは「おとぎ話が作る男女のジェンダー」についてです。

社会制度や文化などによって後天的に獲得する性差、ジェンダーは、子どものころから親しんできたおとぎ話によって基礎を作られるのではないか。

そして、おとぎ話が作るジェンダーは、大人になってからも恋愛の場において影響してくるのではないか。

今回はそんなお話しをしてみたいと思います。

 

出典:内閣府「最初はみんな「お殿様かお姫様」の避難所 」 

 

時にはお姫様のように

当店にやってくる女性客は、ほとんどがバリバリ仕事をこなす方々です。

大きな企業の幹部クラスの方もいますし、会社を経営している方もいます。

男性を相手にしてもまったく引かない方も少なくありません。

ウーマンリブ、キャリアウーマンという言葉がかつては流行し、近年では女性活躍という政府スローガンもありました。

 

常連のNさんは40代前半の女性。

ややふくよかで、タイトスカートも似合う女性らしい女性ですが、勝気な性格で、いつもまわりの男性を圧倒します。

酒の席だからと軽くあしらっていると、「適当なことを言うな」と食ってかかるような強い女性です。

いつも男女数人をともなって、陽気にお酒を飲んでいきます。

 

「わたし、こんなバカ騒ぎばっかりしてるけど、そこらの男なんかよりもよっぽど稼いでるからね」

 

あるとき、Nさんは勢い余ってそんなことを仰っていましたが、実際にそうなんだろうな、と納得しています。

しかし、女性は、恋愛の場においてまで徹底して強くあろうとはしないものです。

 

その夜、Nさんはあまり見かけない若い男性と二人でやってきました。

始めのうちはいつもどおりの調子で声も態度も荒々しく飲んでいたのですが、ふと見ると、いつも以上に酒がまわってしまったようで、カウンターに並んでその男性の肩にしなだれかかっています。

Nさんも甘えたくなるときがあるんだなあと、二人の空間に立ち入らないようにしました。

普段から仕事で無理しているのは確かでしょう。

ですが、「いつも強がってはいても、女性は本来弱い存在なんだ」などという男本位のレッテル張りをするつもりはありません。

本人が言うように、Nさんはそこらへんの男性よりもよっぽど強い人だと心から思います。

 

私が思うのは、これはNさんに限ったことではありませんが、

「男から大事に扱われたい」

「強い者に守られたい」

という願望、いわば“お姫様願望”のようなものが、多かれ少なかれ女性の心のうちにはあるのではないかと思うのです。

 

お姫様は自分で幸せを手にすることができない

日本にも西洋にも多くのおとぎ話があります。

その中で、女の子が主人公のお話には、ある共通する人生観があります。

それは、

「女の幸せは一方的に外からやってくるもので、ヒロインはその幸運の訪れを待つしかない」

というものです。

 

 具体的に見てみましょう。

まずは日本のお姫様。

日本を代表する昔話といえば「竹取物語」です。

光り輝く竹の中から見つけられたかぐや姫。美しく成長し、都の高貴な若君たちから求婚されますが、無理難題を突きつけて、事実上すべて断ります。

やがて、姫は月の住人であることが発覚し、月からお迎えがやってきて帰っていきます。

 

2つ目のお話は、西洋のグリム童話「白雪姫」です。

白雪姫は美しさゆえに継母のお妃様から妬まれてしまい、殺されそうになりますが、気の毒に思った猟師から逃がされ、7人の小人たちの家で暮らします。

しかし白雪姫が生きていることを知ったお妃様は、毒リンゴを食べさせて白雪姫を殺してしまいます。

その美しく寝ているような死に顔に一目ぼれした通りがかりの王子様。

白雪姫の棺桶を譲り受けて運び出そうとしたところ、棺桶が揺れ、白雪姫の喉につかえていたリンゴが飛び出し、生き返ります。

そして白雪姫と王子は結婚してハッピーエンド。

 

最後に「シンデレラ」です。

シンデレラガールという言葉があるくらいにお姫様の代名詞となるお話です。

継母にこき使われて家事ばかりやらされていたシンデレラは、魔法使いの力を借りてお城の舞踏会に行きます。

王子様に見初められて一緒に踊りますが、魔法が解ける午前零時にあわてて帰ります。

王子様は残されたガラスの靴をたよりにシンデレラを探し出し、二人は結ばれてハッピーエンド。

 

かなり乱暴なあらすじですが、これだけで十分おわかりかと思います。

これら有名なおとぎ話に共通しているのは、ヒロインに対する運命の強制です。

ヒロインは幸も不幸も向こうからやってくるのをただ待つだけで、自ら幸運をつかみに行くことを許されていません。

 

白雪姫は自分のあずかり知らぬところで殺され、生き返させられ、気がついたら王子様と結婚している。

シンデレラは魔法使いからチャンスをもらい、舞踏会に出向くという積極的行動には出ますが、魔法使いのいいつけをしっかりと守り、最終的には王子様に見つけ出されるという形で幸運になる。

二人の姫がしてきた行動は、家事をがんばってきたということだけです。

かぐや姫に至っては、誕生の瞬間から発見という受け身系で始まり、何もしていないのにプロポーズされ、月の都からお迎えが来て、話は終わりです。

プロポーズを拒否するという強い意思表示こそしますが、姫自らは一歩も動いていません。

 

こうしたおとぎ話を、小さな女の子たちは夜毎聞かされて眠りに就いているのです。

 

強く見られたいけど、守られたくもある

このように外から幸、不幸が突然やってくるお姫様像が描かれるのは、女性が家の中に閉じ込められて生きることを余儀なくされていた時代ならではでしょう。

現代の理想の女性像としてはあまりそぐわないかもしれません。

「風の谷のナウシカ」や「魔女の宅急便」に代表される宮崎駿監督の映画も、女の子に大人気「アナと雪の女王」などのディズニー映画も、自ら運命を切り拓いていくヒロインが多く描かれています。

 

まだまだ不十分とはいえ、男女同権、男女平等と言われる時代です。

会社を経営する女性も増えていますし、社会への強い発信力をもつ女性も多くいます。

自分の意思ではなく、幸福を受け身の形で獲得するようなお姫様は、現代の女性には蔑まれるべき姿かもしれません。

とはいえ、竹取物語も白雪姫もシンデレラも、どれも名作として語り継がれています。

こうしたお姫様的なおとぎ話を聞かされて育った女性には、精神のどこか奥深くに、古典的な女の幸福像として少なからず根付いているのではないかと思います。

 

多くの男性を束ねてプロジェクトをまわしている“デキる女”でも、時には男の肩にもたれかかってやさしく扱われたいと甘えかかることもあるのです。

 

「強く見られたいけど、守られたくもある」

「たまにはお姫様みたいに扱われたい」

 

社会的に評価されることと、性的に評価されることと、女としての評価は対局にありそうですが、どちらも女性の願望として併存しているものです。

その併存している女性の心理を理解しておくことが、男にとっては大事なことです。

 

仕事のできる女性を尊敬できる男性はすばらしいですが、強い女性像ばかり求めていると、相手は休息の場をなくして疲れてしまいます。

逆にお姫様扱いしすぎる男性もよくありません。

「お前を全力で守る」などという男らしいセリフがあります。

言われた瞬間は女性もうれしいでしょうが、ずっと他人から守られていたら息苦しくなるはずです。

女を守りたいという男性は、「女はか弱い存在であるべき」という女性観に相手を閉じ込めようとしているからです。

 

女性は強いか、弱いかのどちらかに偏らず、自分と対等な相手として尊重し、心のうちに「お守りする」という熱意をとどめておくことが、モテる男の素養でしょう。

 

モテる男は騎士道精神をもつ

男の子は、「桃太郎」や「一寸法師」など、悪と立ち向かう勇者をロールモデルとして育ちます。

少し大きくなると、戦隊モノや仮面ライダーなどの戦うヒーローに憧れるようになります。

戦う男といえば、日本においては武士です。

新渡戸稲造は『武士道』の中で、宗教をもたない日本人の倫理観は“武士道”によって支えられている、と記しました。

戦う行為と同時に、主に仕えるという美徳も日本人男性の中にはあるようです。

 

さらに、新渡戸が日本の武士道と対比させているのが、西洋の騎士道です。

日本の武士道は、同性である男の主君に仕える者の行動規範であるのに対して、騎士道は高貴な女性に仕える男のルールやマナーであるとしています。

この騎士道こそ、欧米人のレディファースト精神を育てたものです。

 

日本人にはレディファーストの精神が足りない、などとよく言われます。

それに反感をもつ人がいるかもしれませんが、

「女は黙って男の数歩後ろを歩くものだ」

などという古典のような男女観を口にすれば、今では誰にも相手にされないでしょう。

 

能力のある女性を尊敬し、身の安全を陰ながらお守りする。

この騎士道の精神にならい、強く、やさしい大人の男として成長したいものです。

 


 

【著者】渡辺 悠樹

千葉県出身。現在山形県在住。ライター。

地方の医療、観光、農業、食文化の記事を執筆。

慶応義塾大学文学部卒。会員制バー、出版業、食肉卸業、行政職員などを経験。

学生時代は落語と野坂昭如に傾倒。20代は酒とツーリングばかり。震災を機に山形へ移住。

小説に、渡辺麦角『壁向こうのリズム』(いるかネットブックス)

https://www.cmoa.jp/title/1101018705/

ブログ  https://note.com/bakkaku