非モテのオタク男子 アイドルグループにハマりモテ男子に変身してしまう

 

「アイドルファンの女たちは、ただイケメンが好きなだけ。」

そうお考えの方も多いことと思います。

しかし、そうではありません。

アイドルを起用することが多かった演出家の蜷川幸雄さんは、あるテレビ番組でこのようなことをおっしゃっていました(あくまで要約です)。

 

「アイドル舐めんじゃねーよ、トップを走るアイドルってのは大衆の欲望の象徴みたいなもんで、何万何百万の人の欲望をメンバーたちを通して果たしてるわけでしょ。売れてるアイドルは売れない中途半端な俳優なんかよりずっと努力しているよ。(中略)だから、アイドルはただ者じゃないんだよ!!」

出典:外務省在ミャンマー日本大使館「ストリートダンスワークショップの開催

 

アイドルファンを馬鹿にしていた私の弟

私の友人のひとりに、某男性アイドルグループの熱烈なファンの女性(20代後半)がいました。

たまたま私が弟を紹介したことがきっかけで、その女性と私の弟がお付きすることになりました。

 

弟は、非常に屈折したこじらせ男子で、ひねくれ方にかけて天下一品でした。

物事をいつも0か100かでジャッジし断罪していく視野の狭い男で、

「俺はAは認めるが、Bは認めない。」

という息苦しい論調ばかり繰り広げる人間でした。

 

お正月に家族団欒でテレビを見ていても、ひとたび彼が口を開くとつまらぬ批評が始まるので、その場からひとり去り、またひとり去り…と。

しまいに皆がその場から散って行ってしまうのが常でした。

我が家はシビアな女ばかりの家系で、狭量な男を殿様扱いする寛大さはありませんでしたので、彼をあるがまま孤立させていました。

唯一、私だけがこの厄介な弟と少年マンガ好きという共通点で強く繋がっており、時々話し相手になっていました。

 

そんな弟は、当然ながら男性アイドルたちのことを、(彼女の前では言いませんでしたが)楽して稼いでいるいけ好かない男たちと断定している様子でした。

 

連れられて渋々行ったライブで価値観がひっくり変える経験をする

あるとき弟は、彼女から推しグループのライブに誘われました。

弟は、そのグループが世間で解散寸前かと騒がれていたこと、そのチケットが当選倍率20倍のプレミアムチケットである事実に興味を持ったらしく、

「どれどれ、どんなもんか観に行ってやるか」

という謎の上から目線で、彼女について行ったようでした。

 

ライブから帰ってきた弟は、「いや〜すごい。あれはすごい…。」とつぶやきながら真っ直ぐ自室に戻って行きました。

 

そのグループは、世間的にはお笑いやバラエティが得意なイメージが定着していました。

しかし、実は彼らはバンドも組んでおり、その技術力もかなり高いのです。

友人である弟の彼女に、ライブ中の弟の様子を聞きましたところ、序盤のダンスメインのアイドル曲で盛り上がっているあたりまでは、弟も静観の構えだったようなのです。

しかしコントコーナーで完全に笑わせられてしまい、その後バンド曲での演奏技術の高さとカッコよさに驚き、M Cで解散説を否定しファンに語りかける誠実な言葉やメンバー同士の絆の深さに衝撃を受けたそうです。

そしてライブが終わった後の興奮レベルが、熱烈ファンの彼女と同じくらいだったそうです。

 

その後、弟は彼らの10年以上の活動の軌跡をネットで調べまくって、彼らのストーリーとエンタメ性の高さにどっぷりとハマっていったのでした。

 

男性アイドルグループの売り方に感心してハマり込む弟

暇さえあれば少年マンガについて熱く語り、少年マンガのセリフだけで日常会話ができる私と弟でしたので、弟は当然この私にその男性アイドルグループに対する感動と魅力を語ってきます。

 

「昨日のラジオでメンバーのMは、こう言っていた。

〈僕たちはファンがいなければ終わっていた、僕もメンバーもそうなんだけど、だから支え合っている。秀でている部分もあるけど、足りないことだらけの人間の集まりなんだ〉

と。

彼らを否定するアンチがいっぱいいるのは知っている。アンチはいつも彼らの欠点をあげつらう。

でも、違うんだ。彼らは、完璧ではないところがいいんだ。いつも這い上がろうと血のにじむ努力をしているところ、挫折して苦しいところ、ダサいところも見せてくれる人間臭さがいいんだ。

彼らはグループの絆を信じて、歌も楽器技術も個々で向上していくと決めて、皆忙しい中で自主トレしてグループのパフォーマンス力を底上げしている。ファンにメッセージを伝えるのが最もうまいメンバーのOが最近になってファンにまめにメッセージを発信して信頼関係を作って、グループとファンの間で大きなグルーブが生まれたりしている。

デビューして10年以上経ってる今にだよ?! いろいろ大変なことがあったからこそ、いまだにドラマが生まれ続けているんだよ。

こうしてリアルタイムで様々な化学反応が起きているのを一緒になって体感すると、とてつもなく感動するんだ。」

 

また、メンバー同士の関係性が強いことは、ビジネス的にも有利だと主張してきます。

例えばメンバーのYくんが好きなファンは、Yくんと同い年でグループ最年長の、いざとなったらYくんのことを精神的に支えてくれるSくんのことも、当然好きになります。

仲の良いメンバーの関係性は、「夫婦みたい」とか「兄弟みたい」とか「オカンと息子みたい」などと言った言葉で表現され、世の女性が求めている、ときに現実では難しい「不変の信頼関係」を体現して見せてくれています。

そういった良好な関係性の連鎖で、ファンが「メンバー個人推し」から「グループ全体推し」に移行していき、例えメンバーの誰かが結婚したとしても、変わらずファンのままでいてくれるケースも多いようです(結婚発表の仕方はかなり配慮が必要ですが)。

 

だからこそ、最も女性ファンがショックを受け離れてしまうのが、

「グループ内のメンバーの誰かがグループをないがしろにした」

と感じられたときです。

グループの絆に不変の愛を見たい女性たちが多いと思いますので、例えば脱退するメンバーが出たりすると、残されたメンバーもファンも、傷だらけになります。

 

 …私もここまで理解したところで、弟の熱に飲み込まれ、このグループを応援するようになってしまいました。

弟が勧めてきたマンガにハマるのと同じ流れです。

 

柔軟性がなく頑固だった弟は、どう変わったか?

私が真っ先に感じた弟の変化は、ケチじゃなくなったことです。

それはあらゆる面で言えることで、時間的にも、金銭的にも、体力的にも、「人に与える」ということをし始めるようになりました。

重い荷物を持つことすら、

「男である俺をいいように利用している」

などと言って断るような人間だったのですが、車の運転なども率先して対応してくれるようになりました。

 

弟がハマったグループの各メンバーにはそれぞれ個性があり、弟に大きな影響を与えたのはメンバーのMくんでした。

Mくんは、アウェーのバラエティ番組でも自分からボケに行くグループの特攻隊長で、スベりまくるのは日常茶飯事です。

そしてライブのM Cでは、番組でスベってメンバーの楽屋で凹んでいる姿をよくバラされています。

イケメンアイドルなのにいつも変な脂汗をかいて臭うことがあるのも、Mくんが常にギリギリのところで戦っている勲章なのだそうです。

弟は、Mくんのそんな泥臭い姿に心打たれた様子でした。

自分はそれができないからこそ、彼のことを心底尊敬しているのです。

 

「一方的な思い込み、決めつけは損をする。」

これは弟がよく言うようになった言葉です。

物事をジャッジして決めつけがちな人ほど、価値観がひっくり変わる衝撃を食らうと熱烈な支持者に変わり、周りにその良さを語りたくなるのだなと、弟を見ていて思いました。

 

何事も、相手(ex.アイドルファンたち)の観点を見るまではわかりません。

弟が変わったのはたまたまでしたが、相手の観点を見ようとする気持ちがあれば、人はいくつになっても変化していけるのだなと感じた一件でした。

 


 

佐久間 雪
大学卒業後、営業職や管理職を経験したのち、独立してフリーのライターになる。