失恋の立ち直り方で辛い想いをしている人へ 自死で親友を失った話を聞いて欲しい

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若くして先に逝った後輩のことを、今でもたまに思い出す。

九州の田舎から上京してきて、たまたま自分と同じオフィスでライター業に就いた彼は、失恋の末にアジアへ旅立ち、異国で自ら命を絶った。

しかも、その失恋相手というのが私の元カノ。

オリンピック表彰台レベルのメンヘラ女子であり、自分も付き合っていた当時は相当参ったものだが、真面目な後輩にとっては自死を選ぶほどの苦悩だったようだ。

 

その後輩の名をここでは仮に、イッシーとしておこう。

もし彼が自分、そして自分の元カノと知り合わなかったら。

イッシーが元カノとくっついた時、もっと彼をケアしていれば。

きっとイッシーは今も生きていて、違う人生を歩んでいたに違いない。

そう考える度に、世の中には取り返しのつかないことがあるのだとつくづく感じる。

 

恋愛で女子にふられて「死にてえ」と考えたことがある方は、決して少なくないはずだ。

それどころか、中には今まさに絶望のどん底、中央線あたりに飛び込もうかと思案している人とているかもしれない。

そんな失恋男に、声を大にして言いたい。

「その悲しみを、いつか必ず笑って話せる時が来る」

 

40数年生きてきて、人並みに失恋経験を持つ身として断言できるが、恋愛の悲しみなんて5年も経てば笑い話。

むしろトークの持ちネタになることもある。

人間の頭というのは都合よくできているもので、よほどの大事でもない限り、時の流れと共に悲しみを忘却してゆくものである。

 

本当に乗り越えられないものとは、人の死だ。

それが家族や友人、後輩であったりすればなおさらで、何年経っても思いが消え去ることはない。

ここでは筆者がそのような思いを持つ至った経験を、読者の皆様とシェアしたい。

愛すべきイッシーが、この世に生きた証を書き留める意味も込めてーー。

 

どれほど後悔しようとも彼が帰ってくることはない

イッシーはヤバいビジュアルと相反して、黙々と仕事をこなす寡黙な男だった。

金髪にパンクロック風の服装、タトゥーもバリバリ入っているが、勤務態度は真面目そのもの。

高校野球やワールドカップのシーズンになると出社しない先輩がゴロゴロいる中でも腐ることなく、仕事や業界作法を教えればちゃんと響く。

 

背伸びしてワルを気取っているけれど、根はいい奴。

そう見抜いた筆者と上司は、ふたりして彼に英才教育を施した。

といってもライタースキルを仕込んだのではなく、単に悪い遊びを教えまくったのだが、これもまた飲み込みが早かった。

平日に仕事が終わってそのままクラブに直行、明け方まで踊り倒してそのまま出社。

はたまた男だらけのアジア旅行に繰り出して、卑猥なネオン煌めく歓楽街で大暴れーー。

 

普段はまるで生気のないイッシーだが、自分の知らなかった世界に足を踏み入れると、キラキラと目を輝かせる。

そんな彼に対してより教育熱心だったのは上司の方で、「ニューハーフはドリル突きに限る」なんて全く役に立たない知識を仕込んでいたが、イッシーはそんなヨタ話にも熱心に耳を傾ける。

要するに自分たちにとって、彼は実に可愛い後輩なのだった。

 

筆者との関係が微妙になったのは、前述の通り元カノとイッシーが同棲し始めてからだ。

彼女は15歳で子供を生んだバツイチ女子で、ルックスは抜群にいいのだが常に身の回りにいる男全てからチヤホヤされていないと我慢できない性格だった。

それは彼氏がいようがいまいが変わりなく、むしろ浮気をして付き合っている相手が慌てふためく姿を見ることで、愛を確かめようとする。

さらに性格は双極性障害の最たるものであり、ご機嫌だったのが数分後には突然取り付く島もなくなったりと、とにかく面倒すぎる子なのだった。

 

ゆえに、イッシーがその子と付き合い始めた時、脳裏に浮かんだのは嫉妬ではなく、真面目な彼が壊れたらどうしようという思い。

だからといって「あいつとは別れろ」なんて言えるわけがない。

でも、結局はそのつまらない男の面子が、間接的とはいえ彼の命を奪うことになった。

 

同棲開始からしばらくして、身も心もズタボロになったイッシーは、仕事を辞めて旅に出た。

それ以来本人と連絡がつかず、忘れた頃に入ってきた一報は、タイの山奥で首吊り自殺したという最悪の結末だった。

実家ではほぼ勘当状態だったと聞いていたが、お父さんが現地に2度足を運び、他殺じゃないのかと現地の警察に詰め寄ったらしい。

実際、本当に自殺だったか、確かめる術はない。

タイの警察とは底なしにいい加減な組織であり、まともに検死をしていない可能性は否定できない。

 

しかし、筆者は彼の性格と、事ここに至るまでの経緯を知っている。

まんま不良といった外見でありながら、決して他人は傷つけない男。

ほとんど病気レベルと言うべき彼女の浮気癖にもひたすら我慢し、そして心が限界を迎えたのだろう。

どこにもやり場のない悲しみにカタをつけるため自死を選ぶというのは、いかにもイッシーらしく感じられた。

 

そして同時に、どうしようもない後悔に襲われた。

あの時、ああしておけば。

どれほど思い悩んだところで、彼が帰ってくることはない。

これまで生きてきて失恋の経験はそれなりにある方だが、その時の心の痛みというものは、時間が経てば間違いなく薄れゆく。

しかし、イッシーのことは忘れようとしても忘れられない。

自分にとっては一生背負うであろう十字架であり、償おうにも償えない重い罪。

彼の遺品であるシルバーピアスを手にする度に、今も自分を責めている。

 

早まる前に残される者へ思いを馳せていただきたい

失恋の悲しみは、いつか薄れゆく。

この道理が全ての人に当てはまるわけではなく、むろん例外もいる。

筆者には友達以上、でも恋人とはどう頑張っても全く呼べない仲良しのタイ人女子がいる。

彼女はタイ最高学府の大学院卒、さらにイギリス留学経験もある超秀才。

頭に積んでいるCPUが常人とは全く違うらしく、一度テキストを見ただけで中身を丸ごと暗記する。

 

ところがその頭の良さが災いし、たとえどれほど過去の出来事であっても日常のふとした瞬間、悲しい思い出を脳内再生してしまうらしい。

「初めて付き合った彼氏に、日本のAVを見ながらするように言われて…私もうお嫁にいけないし、それ以来男の人を絶対信じられない!」

なんてことを言うのだが、そのレベルでお嫁にいけなくなるのなら、自分なんぞ輪廻転生をどれほど繰り返そうが永遠に結婚できないということだ。

 

いずれにせよ、筆者を含めフツーの人にとっては、ここまで延々と悲しみを引っ張ることはない。

一般に女性より男の方が未練がましいが、それとて限界があるものだ。

筆者がまだ20代の頃、一緒に暮らしていた無二の友人が失恋し、発狂したことがある。

これまた自分のケアレスミスではあるのだが、彼女に振られた勢いでどうやらイリーガルな物質に手を出したらしい。

 

出身も歳も同じ。毎日同じ釜のメシを食って、バカ話に明け暮れた大事な友が、人間やめてる状態としか言えないほど手がつけられなる事態。

あの時、これは本気でシャレにならないと感じた自分は、真っ先に台所に行き、布ガムテープで包丁をぐるぐる巻きにした。

当時の思いたるや言葉に言い尽くせないものがあるが、それだって今では2人の間では笑い話だ。

 

「お前、あの時ゴルフクラブ持って暴れだしたから、止めに入ったら頭突きしたやろ。目に青タンつくってそのまま会社行ったら、たまたま来てた半グレ系モデル事務所のマネージャーに『やるときゃやるんっっすねぇぇ!』とかめっちゃ勘違いされたんやで」

などと話せるようになるまで時間はかかったものの、今となってはむしろ青春時代のいい思い出である。

 

人の死は、こうはいかない。

恋愛で失敗したとしても、次がある。でも、命は一度失ったらそれまでだ。

このサイトの読者はおそらく、若い方が多いはず。

長い人生の中で失恋し、絶望的な悲しみに暮れることもあるだろう。

 

死ぬことを考えるのだけは、やめて欲しい。

その思いを伝えたくて、今は亡き後輩のエピソードを皆様にお伝えした次第である。

 

実を言うと、書いていいものかどうか、少し迷ったというのが本音だ。

筆者は霊魂なんぞ信じないが、遺品のピアスを手にして、奴だったらどんなことを言うかなと考えてみた。

きっと「まじっすか、勘弁してくださいよ。俺そういうの苦手なんスよ」なんてはにかみながら、結局は断れずOKしてくれるんではあるまいか。

 

そんな風に答える時の表情までもが目に浮かぶ。

自分にとって、それほど彼のことは忘れ難いのだ。

 

生まれつき天涯孤独でもないかぎり、どれほど孤独な者であっても何がしか人との繋がりを持っているものである。

その中には、貴方の身に不幸があった時、悼む人が必ずいる。

失恋や離婚などで絶望の淵に立った時、どうかそのことを思い出していただきたい。

 


 

【著者】神坂縁

ライター、編集者、翻訳者。

週刊誌記者を経て某中堅出版社に入社。

雑誌の製作に携わっていたが、十数年勤めた会社で内紛が起こったことを機に退職&日本脱出を決意。

現在は国外の通信社に勤務し、アジアの政治・経済に関するライティングを本業としている。

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