大富豪になる夢を見て、美容サロン経営で成功した経営者が異業種に参入した悲劇

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「どうしよう。褒めるところが一つも無い…」

 

私は頭を抱えてしまった。

仕事として記事広告を請け負ったわけではなかったが、私は知人に頼まれて、彼の新事業を応援する記事をブログに書く約束をしていたのだ。

知人とは、私がいつもヘアカットをお願いしていた美容師の松尾さんである。 

彼は今も現場に立ちながら、4つのヘアサロンを経営し、それぞれの店をちゃんと軌道に乗せている優秀な経営者でもあった。

 

私はもう何年も髪はカット技術の高い彼に任せてきた。その彼が並々ならぬ決意で始める新事業なのだから、もちろん応援したい。

しかし、宣伝記事を書こうにも、彼の新事業には褒めるところがどこにもないのだ。

本心では「ここのサービスはひど過ぎる。料金に全く見合っていない」と考えているのに、読者に向けて嘘は書けない。

 

松尾さんが始めた新事業とは、古い建物をリノベーションしたゲストハウス経営だった。

オリンピック招致が決まった日本では、地方でも段々とインバウンドへの期待が高まっていたのだ。

 

私の髪にハサミを入れながら、松尾さんはまるで熱に浮かされているように、新事業に賭けた夢を語った。

今のところはサロン経営も上手くいってますけど、このまま美容業界に居ても先は無いんですよ。

今は少子化でしょう?だからね、最近は理美容の学校に入学してくる子も減る一方で、若いスタッフの採用が難しくなりました。若い子たちが入ってこない業界は、先細りですよね。

 

だからこそ、ゲストハウスなんです!これからは絶対にインバウンドですよ!

訪日外国人観光客は今後どんどん増えていくのに、このあたりは宿泊施設が少なくて、全然足りてないって知ってますか?今がチャンスなんですよ!

ホテルが足りてないという話なら、すでにあちこちで聞いていた。だからこそ、松尾さんと同様そこに大きなビジネスチャンスがあると考える人が多かったのだろう。

駅裏には大手資本によるホテル建設計画があると聞いていたし、駅前に乱立するビジネスホテルの一つは客室を増やすため建て替え工事の真っ最中で、繁華街に近いあちこちの商店街には、個人経営のお洒落なゲストハウスが続々オープンするという話も耳にしていた。自宅で民泊を始めた友人もいる。

 

松尾さんの話は続いた。

僕はね、人を繋げたいんですよ。ゲストハウスの一階は、夜はバーになる共有ラウンジなんですけど、宿泊客だけでなく、地域の人たちにも出入りしてもらいたい。

昼間は近所のお年寄りにお茶を飲みに来てもらって、放課後には子供達が集まって宿題をする。夜は色んな国から来た宿泊客が集まって、地元住民と酒を飲みながらワイワイ騒ぐ。

そうやって、僕のゲストハウスで人と人とがどんどん繋がっていくんです。だから、ゲストハウスには「Tsunageru(繋げる)」って名前をつけました。

僕がやりたいのは、単に宿泊施設の経営じゃない。自分のためではなく、人のため。これは地域の人たちや世界中の人々を、ゲストハウスを起点にどんどん繋げていくプロジェクトなんです

話ながら高揚していく松尾さんの熱が移り、聞いている私も期待感が高まった。

だからゲストハウスがオープンした暁にはきっと泊まりに行くし、ブログにも書くと約束したのだ。

 

ところが、である。チェックイン直後からその約束を後悔するはめになったのだ。

 

開業したばかりなので仕方ないと言えば仕方がないのかも知れないが、フロントの女性は接客に慣れておらず、ご自慢の共有ラウンジは施錠されており入れなかった。

 

お願いして鍵を開けてもらったものの、ラウンジに設置されたプロジェクターは使い勝手が悪く、フリードリンクやスナックも無い。

居心地が悪いので早々に部屋に引き上げたのだが、松尾さんからインスタ映え間違いなしだと勧められた個室もまた、くつろげる空間だとは言い難かったのである。

 

Wi-Fiないし、アメニティもないし

コップもないし、カーテンもないし

お湯を沸かすポットもないし、鏡もないし、カッコつかないし

 

と、電気グルーヴのN.O.に乗せて歌いたくなるような簡素な部屋は、インスタ映えには程遠かった。見るからに安っぽいビニールフローリングの床は、誰かが重たいスーツケースをひきずったに違いなく、もう大きな傷がついている。

 

部屋にはポットどころかコップすら置かれておらず、お湯を沸かしたり簡単な調理がしたい場合には、いちいち外廊下と外階段を利用して階下に下り、小さな共有キッチンに行かねばならない。

 

そういえば、ラウンジやトイレ、シャワールームだけでなく、キッチンや湯沸かしポットまで共有にするのは、宿泊者同士が顔を合わせる機会が増え、自然と仲良くなる仕掛けなのだと松尾さんが言ってたっけ。実際にはただ不便なだけだ。

 

寝具の羽毛布団はフカフカだけれど、エアコンを効かせるにしても真夏の夜に分厚い羽根布団では暑すぎて寝苦しい上、カーテンのない部屋は早朝から太陽が眩しくて、寝ていたくても目が覚めてしまう。

 

個室の内装はケチらず、床にはちゃんとフローリングの板を張った方がいいし、カーテンくらいつけて欲しい。コップや歯ブラシなど最低限の備品やアメニティも必要だ。

お金をかけるべきところに全くお金がかかっていないのに、Tsunageruの宿泊料金は近隣のゲストハウスやビジネスホテルに比べてもかなり割高なのだった。

 

なぜそんなことになってしまったのかは想像がついた。

初期投資が膨らみ過ぎたのだ。古い物件のリノベーションは素人が想像するよりはるかに大変で、いくら直してもキリがなく、修繕にはかなりの時間と費用がかかる。物件によっては、わざわざ直して使うよりも新築を建て直した方が簡単で安上がりなのだと、大工をしている知人から教えてもらったことがあった。

 

つまり、松尾さんも当初はすでにある物件を再利用することで、初期投資を小さく抑えてゲストハウスが開業できると見込んでいたはずだ。けれど、蓋を開けてみたら次から次へと直さなければ使えない箇所が新たに出てきて、建物の改修費用が当初の予算を大幅に超えてしまったのだ。

お金が足りなくなった結果、個室にカーテンもつかず、熱のこもるシャワー室にはエアコンが無いという、中途半端な仕上がりになってしまったのだろう。

資金のほとんどが銀行からの借り入れで賄われている以上、支払利息も大きくなり、宿泊料金を安く設定することができなかったに違いない。

 

事情はわかるが、近隣のもっとサービスが良くて設備の充実したホテルやゲストハウスよりも宿泊料が高いのでは、予約が入らず回転率が悪くなるのも当然だった。

私が利用した日も、他に宿泊客の姿は見当たらず、バーには閑古鳥が泣いていて、開業早々から赤字なのは明らかだった。

 

不便さと居心地の悪さに音を上げた私は、連泊の予約をキャンセルして他のホテルに移った後、松尾さんと交わした約束を思って頭が痛くなってしまった。

 

ヘアサロン経営者としては優秀な松尾さんが、異業種とはいえ、どうしてここまでお粗末なものを作ってしまったのか。

 

宣伝記事をどう書けばいいのかと悩みながら、私は松尾さんのFacebookの投稿を見るともなく眺めていた。

開業したばかりだというのに、松尾さんは自らバーカウンターやフロントに立つこともなく、南の島でバカンスを楽しんでいる様子だった。そういえば、このところ松尾さんはやたらとそのビーチリゾートに足を運んでいる。

 

「まだ軌道に乗っていないゲストハウスをやる気の無さそうなバイトだけに任せて、なぜ遊んでいられるのだろう」

 

と呆れたが、バカンスにしてはどうも妙だ。

 

「よき仲間との出会いとアニキに感謝!今回もまたアニキに愛情たっぷりいただきました!またすぐアニキに愛に行きます!」

 

という文章と共に、チンピラにしか見えない男と、プール付き豪邸で肩を組んだ写真が並んでいる。

なんだ、これ?

 

タグづけされたアニキと呼ばれる男を調べてみると、どうやらその人は「南の島のアニキ」として著名(?)な大富豪なのだそうだ。

若い時に単身で発展途上国へ渡り、そこで幸運を掴んで大富豪になったので、今は悠々自適のリゾートライフを満喫しながら、自分の後に続く人を育てるために「大富豪になるマインド」を教えているらしい。

 

アニキのモットーは「人のため」で、現在のアニキの仕事は「人と人を繋げる」ことだそうだ。

 

「人のため」も「人と人を繋げる」も、松尾さんが繰り返していたワードだ。

寒気を覚えながら更に調べを進めると、アニキという人はオンラインサロンを運営しており、「アニキに愛に行くツアー」というパッケージ旅行を販売していた。

 

ツアーでは、アニキの一押し高級リゾートホテルに宿泊し、アニキ絶賛のレストランで食事をし、アニキゆかりのスポットを観光したり、買い物にも連れて行ってくれるそうだ。

3泊5日のツアーのうち、一晩だけはアニキ邸に招かれ、アニキを囲んでの夕食会でアニキと直にお話できるのが最大の目玉。

そしてツアー参加者たちはもれなく、「アニキの元に集った仲間同士の繋がり」を得られるということだった。

 

私は頭痛が酷くなってきた。

 

アニキは大富豪なのでお金に不自由しておらず、慈善事業で自らのマインドをシェアしているということだったが、そんなはずはないだろう。

アニキツアーは通常のパッケージツアーよりも高額だし、現地のホテルやレストラン、土産物屋からはキックバックがあるに決まっている。

 

サロンの会費は決して高額なわけではないが、日本とアニキが住む国の貨幣価値の違いと物価の差を考えれば、毎月日本から集まる金は現地で大金に化けるのだろう。アニキの悠々自適のリゾートライフは、それらのお金によって支えられているのではないだろうか。

 

そもそも、「俺さまに会うために金を払え」という人間は信用できないし、「会いに行く」を「愛に行く」と書き換えるなど、妙な当て字を使う人間にもろくなのはいないと私は考えるのだが、世間の皆さんはどうだろうか。

 

松尾さんのゲストハウス経営が前途多難な理由がこれで分かった気がした。松尾さんは新事業を始めるにあたり、初めからずっとアニキの方を向いているのだ。

 

ゲストハウス経営がうまくいっていないのに足繁くアニキの元に通うのは、自ら現場に立って試行錯誤するのではなく、大富豪のアニキに成功の秘訣を乞うためだろう。

現場に立ってお客様と向き合い、その声を直に聞いてニーズを汲み取ろうとせず、遠い南の島から無責任なことを言うだけの「アニキの教え」をありがたがっているのだから、新事業が軌道に乗るなどありえない。

 

松尾さんは、元々そんな人ではなかったはずだ。

彼が初めて自分のサロンを持った時、経営が軌道に乗るまでの間、奥さんと二人して朝から晩までがむしゃらに働いた思い出話を語って聞かせてくれたことがある。そのかつての苦労の中にこそ成功へのヒントがあるはずなのに、なぜ盲目になってしまったのか。

 

私は結局、そのゲストハウスの宣伝記事を書くことはできなかった。

経営破綻して破産することになる前に、彼が「お客さまと向き合う」という商売の基本を思い出してくれることを、今はただ祈るばかりである。

 


 

【著者】マダムユキ

ネットウォッチャー。

最高月間PV40万のブログ「Flat 9 〜マダムユキの部屋」管理人。

リンク:http://flat9.blog.jp/


 

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