
「最近はセクハラだなんだってうるさくなったよ。」
そう言ってK部長がビールを苦々しげに飲み干すところを見たのは、今から十年以上前のことだ。
現在では、コンプライアンスが厳しくなり、ハラスメントへの風当りもかなり強くなっている。
しかし、僕が20代だった2000年代はまだまだ認識の甘い人も多かったように思う。
当たり前だが僕自身は、当時からあらゆるハラスメントが自分の社会人人生を一撃で台無しにする失策であることを充分に認識していた。
しかし、残念ながらK部長はそうではなかった。
なぜならK部長は、セクハラが現在ほど問題視されない時期に社会人時代の大半を過ごし、その時代の常識をなかなかアップデートすることができなかったからだ。
こういう人はK部長以外にもたくさんいただろう。
ひょっとしたら、現在でも相当数いるかもしれない。
だが、K部長の場合のセクハラへの認識の甘さは、相当なものだった。
そして、その背景には彼が新人時代の経験があったのだ。
K部長が過ごした古き良き?”昭和的”会社時代
K部長が上司であった当時、僕は銀行の関連会社に勤めており、慣れない業務や上手くいかない人間関係に苦しめられていた。
その日、K部長が僕を飲みに誘ったのは、職場で浮かない顔ばかりしている部下を慰労しようと考えたのであろう。
正直、僕にとってはありがた迷惑以外の何物でもなかったのだが、K部長がそんなことに思いを致せるはずがない。
理由は、もちろん彼自身がそんな経験をしたことがないからだ。
K部長が酒を飲みながら、話してくれた若手時代のエピソードの数々が、僕の推察を裏付けした。
関西の小さな支店で銀行マンとしてのキャリアをスタートしたこと。
ソフトボール大会や海水浴などなど支店の中で毎週のようにイベントがあったこと。
そこから大阪の梅田にある大きな支店へと栄転を果たしたこと。
そこから紆余曲折あって子会社の部長という地位にたどりついたこと…。
田舎の小さな支店からスタートして着々と出世の階段を上っていく自分の話を、K部長は楽しげに語った。
部長の思い出の中の会社は、よくも悪くも家庭的な、「昭和の企業」そのものだった。
僕は愛想笑いを浮かべながら、その独演会を見守ることしかできなかった。
部長に適当に相槌を打ちながらも、タバコが吸いたくて仕方がなかった。
口さみしさを紛らわすためにビールを口に運んだタイミングで出てきたのが冒頭のセリフだ。
そして、その次に出てきたセリフに僕は自分の耳を疑った。
「俺が新入社員のころは先輩から『女子社員のお尻をさわるのがコミュニケーションだから』と教わったもんだよ」
確かにそんな話は、ドラマや小説の中で目にしたことはある。
しかし、本当にそんな教えがまかり通っていた時代があり、その教えを実践してきた人間が実在しているとは…。
しかも、K部長は、そうした教えを受けながらも着実に出世し、現在の地位にまで上り詰めているのだ。
大きなミスさえしなければ来年には取締役になるとも言われていた。
見送りに来た支店の女性陣が駅のホームに並んで…
「疑ってるかもしれないが、本当だぞ」
なかば放心している僕を見て、K部長は念を押した。
K部長だけが悪いのではない。
彼は先輩の教えを忠実に守っただけだ。
そうした行動が許容されうる時代の空気があったのかもしれない。
そういう教えを受けてしまったK部長にとってみれば、確かに今は息苦しいのだろう。
だが、すべては昔の話だ。
常識や社会通念は時代の流れに応じて常にアップデートされなければならない。
状況は常に変化している。その時々の状況に対応できなければ、衰退していくだけだ。
そんな古い感覚のままで、変化の激しいビジネスの世界で的確な意思決定ができるのだろうか。
そうした思いを口に出すわけにもいかず、曖昧な笑みを浮かべているとK部長は続けた。
「俺が大阪の大きな店舗に異動になるときは、支店のみんなが新幹線のホームまで見送りに来てくれたんだよ」。
一瞬、話が別の方向にいったように思えた。
しかし、実際にはまったくズレていなかった。
「その時に一般職の女性の何人かが『私はまだKさんにお尻を触られたことがない』って言いだしてさ。最後、ホームに後ろ向きに並んだ女性陣のお尻を走りながら触って新幹線に駆け込んだもんだよ」
これはもはやホラーである。
そんなことをしてきた人間が、地方から都心部の店舗へと栄転を果たし、最終的には子会社とはいえ部長にまで昇り詰めているのだ。
現在であれば、すぐに出世の階段を転げ落ちるような事案を抱えながら、K部長は今の地位まできてしまった。
社内では何度もセクハラを防ぐための研修が開かれているが、管理職がこの程度の認識ではその効果にも限界がある。
そして、彼が上層部にいるかぎり、現在の体質が改まる可能性は低いだろう。
ひょっとしたら、その体質は次世代に受け継がれてしまうかもしれない。
K部長が先輩から受け継いでしまったように。
この会社には長くいないほうが良いかもしれない…。
そう考えた僕は、嬉しそうに話し続ける部長にかまわず店員に灰皿をたのむと、タバコに火をつけたのだった。
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著者:永田 正行
大学卒業後、零細出版社に広告営業マンとして勤務。
その後、会報誌の編集者を経てネットメディアの編集記者となり、政治家や大学教授へのインタビューを多数手掛ける。
好きな言葉は「ミラクル元年 奇跡を呼んで」の西武ライオンズファン。
Twitter:https://twitter.com/jake85elwood
<Photo:Alex Sheldon >