
叔父は、わたしの親戚の中ではひとりだけ、少しだけ他の人たちとは違う空気感の人でした。
どこかニヒルで、荒んでいる。口は少し悪いけれど、嘘はつかない。同年代や年上には辛辣だが、年下には優しい。わたしの叔父は少しアンバランスな人でした。
親戚の中では少し疎んじられていた叔父でしたが、わたしにとっては親戚の中で一番信頼でき、共感できる人でした。
そんな叔父でしたが、あるとき、とあることがきっかけで叔父は人生から転落しました。
いわゆる人生に詰んだ、という状態です。
今回は、そのときの叔父の話を紹介します。
不倫の相手が実はヤクザの娘。自宅に殴り込みされ、妻には見放された
叔父は妻子持ちでしたが、不倫をしていました。
いつから始まった不倫だったのかは分かりません。相手は、叔父の仕事の取引先の社員だったそうです。
当時家庭内でうまくいかず疲れていた叔父は、いくつかの偶然が重なり親しくなった彼女に惹かれていきました。
叔父は、うまく不倫を隠していたようでした。
妻とのことですれ違いが多く、疲弊していたことは間違いないですが、一方で自分の娘に対しては良き父親であろうとしていたようです。
しかし問題が起こりました。ある夜、不倫相手の父親が叔父の家に殴り込みに来たのです。
妻子持ちの癖にうちの娘に手を出すな、と相手は激怒。
叔父を殴り、その場で固まっていた叔父の妻と娘に不倫のことをバラし、その上『お前が仕事できないようにしてやる』と宣告して立ち去りました。
当然ながら家庭内は凍りついたと叔父は話します。
妻と娘からの冷たい目線。仕事できないようにしてやる、という不穏な宣告。
宣告の意味は翌週の仕事で判明しました。
不倫相手の娘は裏社会の人間、いわゆるヤクザの類だったらしく、叔父の職場と不倫相手の娘が所属していた取引先の双方に叔父を辞めさせるよう圧力をかけてきました。
不倫のことも早々に社内の噂で広がり、すぐに叔父は会社でも家でも居場所を失いました。
仕事は辞めざるを得ない状況になり、叔父に対する信頼の一切を失った妻は、叔父に離婚届を書かせ、今後一生顔を見せるなと叔父を家から追い出しました。
叔父は、(自業自得ではありますが)仕事と家族の双方を同時に失ったのです。
これまでの人生のすべてを失い、いっときは自殺を考えたが…
これまで積み上げてきた職場での立ち位置をその仕事ごと失い、さらには妻と娘から絶縁をくらった叔父。手元に残ったのは養育費の義務のみという状況になって、叔父は絶望します。
これまでの自分の人生とはなんだったのか。
仕事でコツコツと積み重ねてきた信頼は、たかがこの程度のことで失われてしまうものなのか。
既に疲れて冷めきっていたとはいえ、かつては自ら選んだはずだった妻との関係も、当然ではあるものの、こんなにも簡単に失ってしまうものだったのか。
他人からの評価や眼差しに人一倍敏感だった叔父は、自らの落ちぶれっぷりに耐えられませんでした。
かつての友人たちは皆幸せな家庭と一定のキャリアを築いている中で、ひとり他人から指をさされるような惨めな立場に追い込まれ、叔父は自らの人生を失敗したと悟ります。
人生詰んだ。もうこれから先はなにをやったって、これまでの人生も、これからの未来も取り戻すことは叶わない――そういう想いから、叔父はいっとき自殺を考えました。
地元では『よく飛び降りる人がいる』と有名な自殺スポットの岬に毎晩足繁く通い、断崖絶壁の縁から崖の下を覗き込んで、『これからの人生』と『ここで人生を終わらせるという選択』を天秤にかけたそうです。
今ここで終わらせる人生と、終わらせずに惰性で続ける失敗の人生。
どちらがマシかと岬で毎晩考えていると、ある夜、叔父は見知らぬ老人に話しかけられました。
その老人は数年前に妻を病気で失い、時間ばかりを持て余していると自らについて語りました。
岬には、若い頃から趣味でやっていた夜釣りのために来ていたそうです。
老人は、このようなことを話しました。
『暗闇で、人も誰も来ないような時間に、月影が水面に映るのを眺めながら釣り糸を海に垂らすのがひどく心地よい』
『妻も死に、人生の生き甲斐らしきものも失ったが、ただ好きなことに向かい合っていると、人生などちっぽけなものだったなと思う』
『これまで積み上げてきた長い人生より、今こうしているこの一瞬の方が偉大だ』
老人の言葉は、叔父の気持ちを少しだけ動かしました。
翌日から、叔父は岬へ行くのをやめました。
有り金のすべてを費やして各地へ旅行
老人との会話がきっかけだったのか、叔父は旅行を始めました。
北は北海道から南は沖縄まで、車を走らせて、ひとり気ままに旅をしたそうです。
叔父の旅には、とくに目的はありませんでした。ただ一度肩の力を抜いて、これまでのことやこれからのことから自由になってみようとしただけなのでした。
船で数日かけてたどり着く離島での満天の夜空。紅葉の美しい無名の隠れ名所。音が消えるほどの一面の雪景色。
そういった知らない景色との出会いと別れを繰り返す内に、叔父は自分の人生について『どうでもよくなった』といいます。
不倫がバレて、仕事と家族を失った。たかがその程度のことで、自分がなにを失ったと勘違いしていたのだろうと、叔父は逆に自分のことが分からなくなったそうです。
国内至るところ旅行した後には、ありったけの財産をつぎ込んで、叔父は海外へ旅に出ました。
北欧を一周する旅行です。
国内よりもさらに、日常からかけ離れた景色が広がっていたと叔父は語ります。
自然の広がるエリアを中心に旅をした叔父は、その旅の中でトレッキングやキャンプなど、様々なアウトドア系の趣味に挑戦したそうです。
中でも叔父が気に入ったのは、ノルウェーでのカヤックでした。
氷河の浸食作用で長い時間をかけてつくられた、ノルウェーのフィヨルド地形。
その雄大な自然の中を、カヤックを緩やかに漕ぎながら景色を楽しむ。
非日常と自然との一体感が、叔父をとりこにしました。
その体験があまりにも強烈だったのか、叔父は日本に戻ってからすぐに、自分用の折りたたみカヤックと、カヤックを乗せることができる車を購入しました。
そして、その車にカヤックを乗せて、また再び全国を巡り始めたのです。
旅先で出会った人生の真理
カヤックとの出会いで、叔父は変わりました。
叔父の新しい生活は、旅とカヤックとリモートワークでした。
車にカヤックを乗せた気ままな旅。気の向く場所でカヤックを漕ぎ、満足すれば陸に戻って仕事をする。
新しく入社した会社は特殊な給与ルールを課す代わりに叔父にリモートワークを許可したので、大抵の場合、叔父の仕事場は車の中や電源の使えるカフェ、コワーキングスペースのどれかでした。
旅とカヤックはお金のかかる趣味だったので、叔父は以前より仕事に熱を入れて取り組むようになったのです。
完全な成果報酬の仕事を、旅をしながら自分の集中できるタイミングで時間をとり、その時間内でこなしていく。
新しく変わった叔父は、いわゆる風来坊そのものでした。
叔父曰く『あんまり遠くのことを考えずに、今自分が何を見たいかってことだけを意識して生きていくのは、なかなか心地良いんだよ』とのことでした。
『楽だし、不満もない。世俗から離れているから、誰かと比較することもない。こんな生活になって分かったんだけど、人間、幸せになるのに必要なのは、誰かと競争で勝つことじゃなくて、ただ自分が楽しむことなんだ』
こう語る叔父の表情は、かつての少し荒んだ表情ではなく、自嘲も自慢もないすっきりとした顔をしていました。
まとめ
どん底にあっても、新しい出会いで人生が変わることもあります。
叔父の場合、それは旅の中で出会ったカヤックでした。
旅とカヤックにのめり込んでいるうちに『人生に失敗した』『人生詰んだ』という気持ちはどこかへ消え去り、ただ今の自分が楽しめればそれでいい、とシンプルな生き方を選ぶようになりました。
人生の目指すところは人それぞれ。ひとりひとりに自分なりの生き方があるはずですが、もしなにか自分の人生について間違いをしてしてまったような窮屈な気持ちを抱いているのなら、叔父のように『今の自分』に重点を置いた気ままな生き方もおすすめです。
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ライター名:sig_Right
プロフィール:元パティシエのITエンジニア。文筆業が好きで、仕事の合間にライターとして各所で記事を寄稿しています。得意な焼き菓子はシフォン。
<Photo:Carl Heyerdahl>