生き方がわからなかった男が万引きしたベーコンを店員に投げつけて自殺手前から生還した裁判

どう生きればいいのかわからない、そんな人がいます。
暗闇の中をさまよい、貯金が尽き、万引きに走る、そんな生き方をしてしまう人の裁判を傍聴しました。


この裁判の被告は誰にも助けを求めることが出来ませんでした。
彼が死の寸前で生き方を変えることに成功したのは、借金の整理を法律の専門家に相談できたからです。そのきっかけになったのが万引きでした。


裁判では被告の万引きに対する罪と罰というよりも、いかに被告が社会復帰できるか?というポイントに焦点が当てられます。
正しい方法で借金を整理すれば、きっと被告は立ち直るでしょう。


万引きはしてはいけないことですが、それが彼の生き方を変えるターニングポイントになったのです。

生活費のための借金で自殺願望

被告人は34歳の男性です。
20代の頃に作った借金が返せずに苦しんでいました。
その金額は100万円ほどですが、被告にとって返せる金額ではありませんでした。


裁判は簡易裁判所で行われます。
被害額が軽微であり、被告人の母親が弁償をしているからです。
ただ、傍聴席に母親の姿は無く、母子の仲はあまりよくないのかもしれません。


被告人に被害弁償をする経済力はありませんでした。
逮捕時、持っていたお金は100円ほど。
被告は実家に居住し、母親との2人暮らしです。
生活費はそれほどかからなかったでしょう。


しかし、借金の返済のために働いても、給料は月10万円ほどだったと言います。
借金をした理由は生活費のためです。
5年前に1人暮らしをしていたとき借りてしまいました。


100万程度の借金でも、残高が減らないのは地獄だったはずです。
死にたくなる気持ちもわかります。
ですが、債務整理などは思いつきませんでした。
それは、検察の質問などからもうかがえます。


検察「今回の借金について、弁護士の先生とは相談した?」

被告「はい、先生にお任せすることで整理することにしました」


被告の口調は希望にあふれていました。
5年ほど前にした生活費のための借金。
それが未だに返済できていないことから、違法な金利だったのかもしれません。
弁護士の先生に相談することで、借金整理への道が見えたのでしょう。


万引きして弁護士の先生に出会うまで、被告は自殺の直前まで追い詰められていたのです。
生きることに絶望し「死ぬ前に、大好きなベーコンを食べたい」とスーパーで万引きを働いてしまいました。

盗んだベーコンがきっかけで命を救われる

被告は生き方が分からないまま人生に絶望し、自殺を計画します。
死ぬ前に大好きなベーコンを食べたい!と考えた被告は近所のスーパーで万引きをしてしまいました。
不慣れな手つきだったのでしょう。
あっさりと見破られ、警備員に追いかけられます。


被告と警備員はもみあいになります。
警備員は「あばれるな!あばれると強盗になるぞ!」と被告に忠告します。
しかし、被告は捕まりたくありません。


強盗と窃盗の違いなどどうでもよかったのです。
自殺をする前に食べたかったベーコンを盗んだのですから、罪の重さなど頭になかったでしょう。
盗んだベーコンごと上着を警備員に投げつけて逃走します。


そこには免許証の入った財布が入っていました。
警備員は警察に連絡し、警察は免許証に書いてある住所へと向かいます。
そこの住所にあるガレージで、被告はまさに首を吊ろうとしていました。

警察官が被告を取り押さえます。
もし、被告がベーコンを万引きしていなければ、そしてそれを見つかりあばれなければ、免許証の入った財布ごとなげつけなければ、被告の自殺は成功していたでしょう。

弁護士の先生に相談することで人生が変わる

裁判では、被告の動機と借金について取り調べられます。
それはベーコンを盗んだ罪に問うものではなく、その借金を整理するにはどうすればいいか?という内容でした。


弁護士「なぜ、ベーコンを盗んだの?」

被告人「その日に自殺しようと思ってました、最後に食べたかった」

弁護士「自殺しようと思ったのはなぜ?」

被告人「給料が入ってきても貯金できず、借金が減らず生きていて楽しいことが無かった」

弁護士「どうして逃げたの?」

被告人「捕まると、自殺できなくなると思ったから」

弁護士「今回の万引き被害を弁償してくれたのは誰?」

被告人「母です」

弁護士「お母さんは面会に来てくれた?」

被告人「いえ、手紙だけ」

弁護士「これからお母さんとはどうしたい?」

被告人「母に感謝し、一緒に生活していきたい」


傍聴席には誰もいませんでした。
被告の母親とは仲が良くないのかもしれません。
それでも、裁判では身元引受をしてくれて、社会復帰のための監督をする人物がいれば有利に働きます。


担当してくれた国選弁護人の先生に借金のことを相談し、被告は生き方を変えることが出来るでしょう。
もし、ベーコンを万引きしていなかったら、弁護士に借金の相談をするチャンスはありませんでした。
そもそも、被告は債務について、ただひたすら働いて返すことしか頭になかったようでした。


続いて検察が質問します。


検察「借金はいつから?」

被告人「5~6年前から」

検察「どうして借金したの?」

被告人「仕事を辞めて、借金で生活していた」


検察の追及はあまりありません。
ここでは被告人の社会復帰が最重要項目なのだと感じました。
そして裁判官の質問に入ります。


裁判官「お母さんと会話している?」

被告人「いえ、借金が理由で孤立しています」


裁判官も、被告人の犯した罪よりも、母親との関係や借金に注目しているようです。
そこの問題さえクリアすれば、被告はまっとうに社会復帰できるでしょう。


裁判官も最後にこう言っています。


「今回の裁判は借金解決のきっかけになるだろう、せっかく生まれたのだから、これを機に立て直しなさい」


裁判を振り返ってみても、すべてが運命的です。
ベーコンの万引きから始まり、首吊り未遂をして警察に確保されたことが被告の生き方をかえたのです。


被告人は最後に「借金を返して、生きていきたい」と言いました。

まとめ:他人によってあっさりと生き方が変わることがある

自分1人ではどうしようもないことでも、誰かに手伝ってもらうことであっさり解決することがあります。


男のプライドが邪魔をして助けてくれと言えないのかもしれませんが、時には誰かの助けを求めるのもいいのではないでしょうか。


万引きは確かに悪いことです。
ですが、今回にかぎっていえば、被告の人生が好転するポイントになったのは間違いありません。


被告のように生き方がわからない。
そんな暗闇にいるのなら、1人であがくよりも、助けてください、と他人に言うべきです。


自分1人では解決できない問題の答えは、他人が持っているもの。
今回の裁判がまさにそれでした。
被告の抱える借金問題は、債務に強い弁護士ならあっさりと解決できる問題です。


そして、助けを求められた側は、嫌な気分になるでしょうか。
今回の裁判ではそんな人は1人もいませんでした。
法廷にいる全員が、被告の社会復帰を望んでいました。


そんな他人とのつながりのきっかけが、死ぬ前に食べたかったと言うベーコンです。
スーパーでベーコンを見かけるたびに、あの被告、頑張ってるかなあと思い出します。

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野澤 知克
プロフィール:自営業(飲食店)を営みながら、ふとしたきっかけで裁判傍聴にハマった傍聴ライター。現在は専業ライターとして、裁判所に通う毎日。事件を通して人間の「生き方」と向き合ってます。

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