パチンコ屋のトイレで強盗未遂 シングルマザーで貧困に追い詰められた女性の生き方とは

「トイレに入ったら突然包丁を突き付けられた!」なんてことがあるでしょうか?
ほとんどの方は経験がないと思われます。


この事件ではそんな稀な出来事が起こってしまいました。
とあるパチンコ屋のトイレに入った女性が、いきなり自分よりも20㎝背の低い小柄な女性に包丁を突き付けられたのです。


もみ合いになりケガはありませんでしたが、被害者はトラウマを負ってしまいました。
それでも、どこか犯人の事を断罪する気にはなれませんでした。


包丁を突き付けられて、お金を取られそうになっても断罪する気にはなれない。
そんな気持ちにさせる優しい強盗の裁判を傍聴しました。

ふらりと入ったパチンコ屋のトイレで突然包丁を持った女が襲ってくる

「銃刀法違反、強盗未遂」という罪名の裁判を傍聴しました。
この罪名からヤクザの犯罪を想像していましたが、被告人席に座る女性を見て驚きます。


身長は150㎝ぐらい、体重も50㎏以下でしょう(弁護士によると30㎏台だったようです)。
とても小柄な女性だったのです。


彼女が犯したのはパチンコ屋のトイレに隠れて、隣の個室に入ってきた人に包丁を突き付けたという強盗です。


その時やってきたのはたまたま大柄な女性で、被告よりも20㎝背の高い人でした。
もみ合いになり被害者は脱出、被告も逃げ出しました。


幸い被害者にケガはなく、被告も捕まりました。
しかし突然の出来事に被害者は精神的にダメージを受けてしまいます。
誰でも使える様なトイレに入ることはできなくなり、事件の後遺症に苦しんでいました。


被害者は証人として出廷し、証言台でも
「被告人を見て(犯人であると)確認できますか?」
という質問には「いいえ」と答えています。


それほど恐ろしかったのでしょう。


それでも
「当時はずっと入っていてほしいと思いましたが、子供がいると知って気持ちが変わりました」
と証言しています。


その言葉に涙を流す被告人。
そして事件の内容が明らかにされていきます。

圧倒的体格差と個室トイレのもみ合い

証言台に立つ被害者が当時の状況を語りました。
被害者は夫とドライブを楽しんだ後、パチンコ屋に入ります。


時刻は13時、まずトイレで用をたし、その後鍵を開けようとした瞬間にバン!とドアを開けられました。


目の前には帽子を被り右手に包丁を持つ小柄な女性。
身体は20㎝も低く小柄ですが左手を前にして身体を接触させてきます。

被害者は「殺される!」と抵抗します。


犯人が
「静かにしろ!中に入れ!金を出せ!」
と言われましたが


「いやだ!」
と押し返しもみ合いになりました。


「キャー!助けて!」
と叫ぶと口に指を入れられます。


それを思いっきり齧り、犯人の包丁を両手で掴み洗面台に叩きつけました。
包丁を奪い、逃げ出します。


客が被害者の姿を見て悲鳴を上げました。


店員が「どうしましたか?」と被害者に声をかけた時には、犯人はすでに逃走していました。


精神的に深く傷ついた被害者は、法廷でも被告と顔を合わせることが出来ません。
事件の事がフラッシュバックするので、1人で誰でも使えるトイレに入ることもできず苦しんでいます。


それでも厳罰を望んではいませんでした。
被害者も子供を持つ親として、被告の状況に同情せざるを得なかったようです。


「裁判にお任せします」
被害者は証言が終わると振り向きもせず足早に法廷を去っていきました。

やさしすぎる強盗未遂犯

被告人の経歴や動機なども明らかにされていきます。
高校卒業後さまざまな職に就いた被告は当時無職でした。


無職になる前はレストランで働いていましたが、人件費削減の為に辞めざるを得なかったということです。


子供は2人いて上の子は遠い予備校の寮にいました。
元夫からの援助はありません。


再就職もできませんでした。
娘と暮らしていた被告は対人恐怖症におちいっていたようです。


「人から連絡が来るのが怖い」
とスマホで転職サイトの案件を眺めるだけ。


仕事をしていない後ろめたさから、仕事をするふりをしてパチンコ屋にいったりしていました。


当然すぐにお金は尽きてしまい、借金も消費者金融から2件ありました。
知人や両親からお金を借りていましたが、カツカツだったようです。


自分の生活だけでなく子供達にもお金がかかる年頃で、予備校に寮から通う息子から


「お金の振り込みはいつ?」
「お腹空いた」
「死にそう」


とラインが来たり、娘から


「友達とライブにいくから」とおこづかいを要求されます。


被告は子供たちの為にお金を工面しようとしましたが、仕事を辞めたのを子供にも、親にも相談できませんでした。

そこでお金を奪うことを思いついたのですが、凶器に選んだのは100円ショップの包丁でした。
「切れないから安心だと思って」
選んだのです。


それを持って朝からパチンコ屋のトイレに潜みましたが、行動に踏み切れません。
トイレの個室で聞き耳を立てながら昼すぎまでそこで悶々と葛藤するのです。


そこに「入金まだ?」と息子からラインが入り、13時に決行したのです。


左手で被害者を押し、右手で包丁を逆手に持ちます。
20㎝も背の高い被害者に見えるように包丁を持ちます。


この時、刃を被害者へ向けないようにしました。
「まっすぐにすると突っ込まれたらケガをさせてしまうと思ったから」と包丁の刃の部分を見せます。


それでも被害者は包丁を持っている手の側から逃げようとしたので、あぶないと思いとっさに左手に持ち替えました。


そしてもみ合いになり、被告の強盗は未遂で終わったのです。


被告は今では就職をし、両親のサポートを受けて生活しています。
弁護士の説明では元夫も援助することにやぶさかではなく、これから被告と家族の生活は安定に向かうのでしょう。


傍聴していて「未遂で良かった」と思った裁判でした。

まとめ:やさしくなりたい

私は「仕事を辞めたい」と考えたことがあります。
そんなもの、きっと誰だって1度はあるでしょう。


それでも
「将来の為」
「子供の為」
「他にマシな仕事が無いから」
とそこで頑張ったり、頑張れなかったりします。


傍聴していてこの被告は「優しすぎる人」という印象を受けました。
人件費削減の為辞めざるを得なくなり、そこから再就職する勇気を持てなくなってしまいます。


もし被告の性格が自己中心的なら、人件費削減なんて知るか!とゴネたりしたでしょう。
強盗未遂を犯してしまったのは、ひとえに被告が優しい性格だったからです。


子供からのお金の要求に切迫してしまった被告。
その心情を想像すると胸がキュッと締め付けられる思いです。


「金なんて無いよ!」


と子供に言えるような人では無かったから、なんとかお金を用立てようとしてしまったのでしょう。
私だったら、予備校なんて辞めてしまえ!と言っていたかもしれません。


世の中には、このような優しくて損な生き方の人が沢山いるのではないかと思います。
対人関係のストレスに悩み、助けを呼べずに1人で泥沼に沈んでいく人。
もし、自分の近くにそんな人がいるならば、できるだけ手助けをしてあげたいと思いました。

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野澤 知克
プロフィール:自営業(飲食店)を営みながら、ふとしたきっかけで裁判傍聴にハマった傍聴ライター。現在は専業ライターとして、裁判所に通う毎日。事件を通して人間の「生き方」と向き合ってます。
Twitter:@hatinoyado

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