SNSで人気のキラキラ女子が離婚を言い渡され全てを失った記録〜アメリカン・ミーム〜

ミームとは、ウィルスのようなものであるらしい。
現代では、インターネット文化の中で人から人へと広がっていくアイデア・行動・スタイルを指すと考えれば良いだろうか。


Netflixオリジナル映画「アメリカン・ミーム」の中でネットセレブたちが言うように、今の時代は誰でもがSNSを使って有名人に成り上がるチャンスがある。


俳優、モデル、ミュージシャンとしての実績はゼロでも、ネットでは夢の人生を生き、それがウケればネットタレントとして有名になれるのだ。


しかし、ネットは簡単に夢を実現できる代わりに、全てを失うのも簡単である。
そして、自らネットに公開したことは、今後一生つきまとうということも忘れてはならない。


一時期に比べると下火になったようだが、ネット上には「キラキラ起業家」と揶揄される女たちが多数存在する。


彼女たちは、実際にはこれといって秀でた能力や評価されるべき実績が無いにも関わらず、SNS上では「素敵な私」を演出している。


SNSやブログを見る限りにおいて、彼女たちはやりがいのある仕事に従事し、理解あるパートナーに愛され、可愛い子供にも恵まれ、住んでいる地域に貢献し、環境保護活動や慈善事業にも熱心で、何より美容への意識が高く美しい自分を誇りにしているようだ。


そして、「輝く私」の私生活を毎日のようにSNSでアピールする。


大橋 恵(仮名)も、そんなキラキラと眩しい女の一人だった。


私が大橋と知り合ったころ、彼女はまだ幼児の子育てに専念する専業主婦だったが、やがて夫の両親と同居するようになると、彼の実家の家業である農業を手伝い始めて「農業女子」を名乗り始めた。


そして、SNSでは作業服に身を包んで軽トラや農機具を操り、農作業に従事する姿を投稿しては、いかに農業がやりがいのある仕事であるかを綴るようになった。


私は彼女の投稿を見かけると、いつも「いいね」を付けていた。


「農業を知る前は毛嫌いしていたけれど、いざ手伝い始めてみたら、農業と地域の魅力に気がつきました。私は今、必要とされて、水を得た魚のように楽しくやっております。これからはこの地域の宣伝部長としてよろしくお願いします」


と語る彼女は生き生きとして見えたし、それ以前は何かにつけ不平不満が多く、我が強いあまり周囲との軋轢も絶えなかった彼女を知っていただけに、居場所を見つけることができて本当に「良かったね」と思ったからだ。


畑のそばに新築したこだわりのマイホームは素敵だったし、器用な彼女が自宅で作る手作りのジャムや野菜ケーキも美味しそうだった。


そんな充実した生活と幸せを掴んだように見えた大橋に不審を抱くようになったのは、彼女がモデル活動を始めてからだ。


「モデル」と言っても、ファッション雑誌に登場したり、広告に起用されたりすることはない。
ただ自らスタイリングした服や着物を着て、知り合いのカメラマンにポーズを決めた写真を撮ってもらい、それをSNSに投稿しているだけで、自称「モデル」なのである。
面の皮が薄いとできない。


それでも農業には熱心に取り組んでいる様子だったので、自称モデル活動もおしゃれ好きな女性の趣味としては悪くないと思ったが、自治体主催の起業セミナーで大橋と同席した友人から、


「大橋さんはセミナーで、『私は芸能人みたいになりたい』って宣言してたよ。何言ってんのこの人、と思っちゃった」


と聞かされ、自称モデル活動は遊びでなく、本気でネットタレントを目指しているのだと知った。
彼女のSNSのプロフィールには、「モデル」という肩書きが追加されていた。


しばらくして、大橋はSNSでミセスコンテストへのエントリーを報告した。
聞いたことのないコンテストだ。


コンテストの公式HPを見ると、運営会社はまだ新しく、スポンサー企業も付いておらず、グランプリ受賞者はモデルやタレントとして活動できると書かれていたが、前年度の受賞者がモデルやタレントとして活躍している様子はなかった。


「これは単に自己承認欲求が強い主婦から参加費を集めるのが目的のコンテストビジネスでは?」


という疑念がわき、私はしばらくその大会の様子を観察することにした。


大橋のSNS投稿は次第に内容が変わっていった。
農業女子代表として農業と地域の魅力を伝えたいと意気込んでいたはずが、農作業や地元の農作物を紹介する投稿は減り始め、大会に向けた「自分磨き」の様子と自己アピール、自称モデル活動の報告ばかりになり、うんざりした私は「いいね」を付けるのを止めた。


それにしても、コンテスト参加には大金がかかっていそうだった。
高額なエントリーフィーとは別に、トレーニング会場やコンテスト会場までの交通費、ステージで着用するイブニングドレスや着物は自分で用意しなければならない。


家族も同行する場合は、人数分の大会観覧料と、それぞれが正装するための衣装代、滞在費もかかってくるのでバカにならない金額となる。


晴れ舞台に立った大橋は、持ち前の我の強さとアピール力を遺憾なく発揮し、地方大会から日本大会までは順調に進んだが、惜しくも世界大会への出場権は逃した。


ここで終わりになればよかったのだが、しばらくすると「世界大会出場者に辞退者が出た為、繰り上げで私が出場することになりました。主人とも話し合い、応援してくれることになったので挑戦します!」と喜び勇んだ様子が投稿された。


大橋を知る友人から、


「あれはきっと世界大会のエントリーフィーが高額なのでしょうね。お金がかかるから辞退者が出たのよ」


と聞かされ、なるほどと納得。
引き続き興味深く観察を続けていたが、大橋の投稿は次第に滑稽さが増していく。


世界大会のコンテスト会場とコンテスト出場者の顔ぶれは、目を疑うものだった。
いくら「美を競うコンテストではない」とはいえ、東南アジアにあるホテルの宴会場に設置された安っぽいステージと、そこに居並ぶどぎつい衣装に身を包んだ厚化粧のアジアンミセスたちの出で立ちは、どうみても場末のショーパブにしか見えない。


ステージ上で披露される歌やダンスなどの素人芸にいたっては、いっそ場末のショーパブの方がよほど上等なショーが観られるだろう。


コンテスト最終日、大橋は特別賞を受賞したと喜びの投稿をしていたが、確認するとそのコンテストの世界大会ではほとんどの参加者が何らかの賞を受賞していた。


グランプリや準グランプリは複数人が受賞するので誰が最高賞なのか分からず、特別賞も多数用意されている。


ほとんどの参加者が受賞者となる理由は単純で、コンテストにたっぷりお金を払ったお客さんたちに満足して帰っていただくためだ。


世の中にはミスユニバースやミスワールドなど名高いコンテストがあるが、それらの真似事をして参加者に「気分」を味ってもらうのがその手のコンテストビジネスの趣旨なのだから。


価値のないものに大金を払い得意満面で帰ってきた彼女を見て、私と友人たちは腹を抱えて笑っていたが、同時に哀しくもあった。


こうした主婦たちの「何者でもないのに何者かになりたい気持ち」につけ込むビジネスを見るにつけやるせなくなってしまう。


大橋はミセスコンテストの世界大会代表、および特別賞の受賞者として凱旋帰国した直後から、地元のローカルメディアやイベントに呼ばれるようになり、念願の「有名人」に近づいたようだった。
そして、彼女のプロフィールには「インフルエンサー」という肩書きが追加された。


しかし、しばらくすると、どうも様子がおかしいことに気がついた。
大橋は「農業女子として農業の魅力を伝えたい。そのためにコンテストにも参加した」はずだったのに、ぱったりと農業の話をしなくなり、「世界の環境問題」について熱弁をふるいだしたのだ。


世界大会までは「ベストハズバンド」だと惚気ていた大橋の夫も急速に影が薄くなり、農家が一年で最も忙しい収穫期にも彼女が家業を手伝う様子は見られなかった。


当然の結果、ほどなくして大橋の家庭は壊れ、離婚の報告がなされた。


離婚後の彼女はモデル活動をしなくなった。
モデルとして仕事が取れていたわけではなく、自らお金を払って撮影していたのだから、夫と別れて好きにお金が使えなくなれば自称モデルは廃業せざるを得なかったのだろう。


自称インフルエンサー活動の方は、彼女が以前から利用していたSNSアカウントは更新が止まり、新しく始めたHP、ブログ、SNSの新規アカウントは短期間運用された後に、ひっそりと削除された。


動画チャンネルも開設していたが、コンテンツの再生回数は伸びず、公開早々から低評価がつけられ、しばらくするとやはり削除された。


追い討ちをかけるように、自称インフルエンサーだった彼女が実はどこにも影響力を持っておらず、支持もされていないことがクラウドファンディングで可視化されてしまった。


大橋は50万円の資金を集めるプロジェクトを立ち上げ、支援を訴えたものの集まった支援者は数名しかおらず、支援してもらえた金額は5万円に満たなかったのだ。
それが、虚飾にまみれた大橋の虚飾不可能な現実だった。


果たして彼女は現実を受け入れ、リアルライフに戻ることができるのだろうか。
ミームに感染した人間の治療薬は、まだ見つかっていない。

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マダムユキ
ネットウォッチャー。最高月間PV40万のブログ「Flat 9 〜マダムユキの部屋」管理人。
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Photo by Church of the King on Unsplash