検索結果から消せない犯罪歴 実名報道をされてしまった男の意外な動機と人生とは

「あの子とは付きあっちゃダメ!」

と子供に言う親がいます。

 

理由はさまざまですが、子供にはわからない事情や距離を置きたい家庭など、地域ぐるみの差別は存在します。

 

今回、窃盗の事件を傍聴したのですが、事件は人口1万人ほどの、農業と観光でもっている小さな町での出来事でした。

 

事件では被告は友人にそそのかされて、会社の重機を盗んでしまいます。

被告はお金に困っているわけでもなさそうでした。

しかも、あと数年働けば定年退職という年齢です。

 

なぜ被告は窃盗を犯してしまったのでしょうか?

その答えは、友人との人間関係でした。

そこには閉鎖的な人間社会の差別が見え隠れしていました。

 

大胆不敵な重機窃盗!その手口とは

 

窃盗の裁判を傍聴すると、被告は痩せた男性、年齢は50代の後半でした。

スーツを着ていて、それが着慣れている印象です。

きっと普段から着ているのでしょう。

仕事は会社員でした。

 

 

被告は3件の重機窃盗事件を犯しています。

ホイールローダーといわれる大型の重機がターゲットで、冬になると除雪に活躍するものです。

ですのでこの地域では珍しいものではなく、ちょっとした会社なら1台は所有しているものです。

 

そして重機は窃盗されやすい物です。

ホイールローダーは値段が高く、高級車が買える価格ですが、防犯対策がしにくいのです。

 

しかも最初の犯行は被告人の働く会社から盗んだものでした。

盗み出すのは簡単だったでしょう。

計画は企画者である友人が輸送用のトラックを用意して、被告人が重機を運転してそれを盗むといった計画です。

 

しかし、ここで予想外のことが起こりました。

ホイールローダーは大型のもので、トラックに乗せることはできなかったのです。

仕方なく被告人は畑の中にそれを停車し、翌日回収に来ようとします。

そして翌日、回収するまえに土地の権利者が自分の畑の中にある不審なホイールローダーを発見し、この窃盗は失敗しました。

 

その後も2件、被告人たちは重機窃盗を試みました。

うち成功したのは1台だけです。

500万円相当の重機を55万円で売却しました。

その時には計画を企てた友人は覚せい剤で捕まってしまい、お金は被告の懐に入ることになります。

 

そのお金は「使ってしまった」ということですが、詳しい用途については不明でした。

推測ですが、生活費という訳ではなさそうです。

被告は50代の会社員であり、家族とも縁が切れているわけではありません。

このようなタイプの人間は貧困による窃盗事件は起こさないものです。

 

しかも小さな町で会社の重機を盗むのはリスクが高すぎです。

バレたらクビは間違いないでしょう。

その町に住み続けることすら難しくなります。

 

なぜ、被告はこのような窃盗事件を犯したのでしょうか。

裁判は進み、被告の動機と言える部分に迫ります。

そこには被告と友人の複雑な人間関係がありました。

 

「兄を唯一人間として扱ってくれた」友人の頼みで犯罪を企てる

 

この窃盗事件を計画したのは被告ではありません。

言い出しっぺは被告の友人でした。

 

その友人は地元では有名な悪人で

「あの人とは付き合うな」

と被告は妻に言われています。

 

やくざ者で評判が悪く、その様な人物を交流することは悪い評判を自ら買っているようなもの。

田舎の小さなコミュニティでは「あいつの友人」とレッテルを張られてしまうでしょう。

 

 

それでも被告は友人との付き合いを続けていました。

その理由を弁護士に問われると

「私には知的障害の兄がいるのですが、共犯者だけはまっとうに接してくれた」

と答えています。

 

この発言から、被告人の兄は人間扱いはされてこなかったことがわかります。

少なくとも被告はそう感じているのは間違いありません。

それは言い換えるなら差別でしょう。

障碍者差別。被告によると、その悪いヤクザ者の友人だけが兄を差別をしなかったということです。

 

ヤクザ者と差別されてきた人間だからこそ、差別される辛さをしっていたのでしょうか。

それとも、被告人に取り入るためにそのような演技をしたのでしょうか。

法廷にもでてこない友人のことを深く知ることは不可能ですが、とても皮肉を感じました。

 

付きあう友人を選べば真っ当な人間になれるのか?

 

被告が窃盗事件を犯した動機はこの友人との人間関係だと考えられます。

なぜなら被告はあと数年頑張れば60歳になる年齢です。

重機を盗むより、退職金を貰えるまで勤めた方がよっぽどマシなはず。

 

さらにこの事件はニュースで報道されました。

被告人の名前は今もネットと事件名で検索すればヒットします。

小さな町で暮らし続けるには重すぎるハンデを背負ってしまいました。

 

それでも、被告はクビを覚悟して友人と重機窃盗をやってしまったのです。

本当にお金のみが目的ならば、もっと別のやり方があったと考えられます。

法廷でのきちんとした受け答えから、それを思いつかない被告ではないと感じました。

 

 

つまり被告はお金よりも友人との人間関係を重視したのではないでしょうか。

被告にとって友人は、唯一兄と真っ当に接してくれた人間です。

そんな人に協力するのは、人として正しいと考えたのかもしれません。

 

事件後も被告は会社で働き続けています。

家族は

「恥ずかしくて町にいられない」

と言っています。

弁護士はすでに社会的な責任をまっとうしていると裁判官に言いました。

被告人は言葉少なく、すべての罪を認めて立っていました。

 

結論:影響しあう人と人

 

被告人は会社を50代後半になるまで勤め、今も働いています。

家族があり、知的障害を持つ兄がいます。

私はとても立派な人だと思いました。

結婚もせず、ふらふらとしているような私とは違い、ちゃんと人生と生活を積み上げて来た人間です。

 

そのような人物でも、友人による悪のささやきに耐えられませんでした。

本当にお金が欲しかったのかは不明ですが、窃盗を計画したヤクザ者の友人さえいなければ、被告は犯罪を犯さなかったでしょう。

 

私はあらためて人は影響しあうのだと思いました。

窃盗事件を犯す人が近くにいたから、被告は窃盗事件を犯してしまいます。

これはどんな人間関係にでも当てはまることです。

 

たとえば、理想とする人がいれば、その人の近くに行きたいと考えます。

お金持ちになりたいなら、お金持ちにその方法をきくのが一番ですし、モテたいならモテる友人を持つことが近道です。

 

被告は

「知的障害を持つ人を差別する人」

にはなりたくないと考えていたと思われます。

それゆえに、ヤクザ者の友人との人間関係を続けてしまったのかもしれません。

 

親しくしたい人、そうでない人との距離感を大切にしようと、私はこの事件を傍聴して思いました。

 

 


野澤 知克
プロフィール:自営業(飲食店)を営みながら、ふとしたきっかけで裁判傍聴にハマった傍聴ライター。

現在は専業ライターとして、裁判所に通う毎日。

事件を通して人間の「生き方」と向き合ってます。
Twitter:@hatinoyado