パンツフェチは悪なのか?パンティに夢中になった男たちの様々な末路

 

出版社に勤務していた頃、自分は下着付録つきエロ雑誌なるものの製作に携わっていた。

購買層は言うまでもなく、女性の下着なしには生きていけない重度のマニアの方々である。

 

経済産業省が発表している日本の下着輸入量に関する統計によれば、2014年の数字で40億点とある。

そのなかに含まれているかどうかは知らないが、かつて自分は、雑誌編集者でありながら年間数百万枚、下手すればそれ以上の下着やブラを海外から輸入していた。

パンツ付録本で使うためである。

 

ひと昔前、付録つきの雑誌がコンビニ売りの雑誌で流行ったことをご存知の方は多いはず。

ファッション誌ならトートバッグやポーチなんぞが付いていたりするわけだが、その手法を男性アダルト誌に取り入れて生まれたのがこれだ。

つまり、数百万もの男性がパンツ欲しさに、普段買わない雑誌を手に取るのである。

 

そんなもの誰が買うのと言うなかれ。

当時は、文字通り飛ぶように売れに売れた。

まさかこれほど世間に下着好きが多いとは、さすがはHENTAI大国ニッポンである。

 

ただし売れ行きがいい反面、読者対応が大変だった。

1日に同じ人から複数回電話は当たり前。

熱く下着愛を語る人から付録のパンツが好みと違うとお怒りの方まで、殿堂入りのマニアたちの熱烈コールが止まらない。

そんな電話を何年にも渡って毎日受けていれば、嫌でも下着フェチの生態が掴めてくる。

 

なぜ彼らは女性の下着に劣情をもよおし、時に一線を越えてしまうのか。

当時のエピソードを交えつつ、筆者なりに分析を加えてみたい。

 

たとえ特殊な性癖であっても、明るくオープンに語るべし

まず、これまでに軽く数百時間以上は下着トークを聞かされてきた者として、確実に言えることがある。

下着フェチと聞くとそれ自体が気持ち悪いものと考えられがちだが、そうではない。

同じ性癖の持ち主でも、語り手によって受ける印象は全く異なる。

 

明るく自分の好きなものについて話す人は、たとえ言っている内容が世間的にアウトでも意外に悪い気はしない。

もう、こんないい歳して下着ばっかり集めちゃってね。

毎月買ってるから収納場所に困ってて、俺が死んだら遺品整理で全部見られるでしょ。

子供に親父は下着泥棒だったとかきっと思われるよ。でも、こればっかりは仕方ないんだよ。

俺の性癖なんだから。

そんな風に言われると、どれほど仕事が忙しい時にかかってきた電話でも嫌な気にならないどころか、是非長生きして欲しいと思ったりするものだ。

 

それに対して己の偏愛志向に後ろめたさがある人は、まるで繁華街のねばつくアスファルトのごとく、じっとりとしたトークをかます。

当然、聞くに堪えないキモさである。

個性と言ってしまえばそれまでだが、同じ変態でもオープンであるかどうかで他者の感じ方は大きく異なると考えることもできる。

 

だからといって、上履きの匂いが好きだの自転車のサドルを集めておりますなどと誰彼構わずカミングアウトすればいいわけでは決してない。

ちゃんと自分の性癖に向き合い、そのことを少なくとも自分自身は肯定するだけで、印象はガラリと変わる。

 

同じ変態の道でもスキップしながら進むか、重い十字架を背負ってゆくかでは全然別物。

もし貴方が何かしら特殊な性癖をお持ちなら、いっそ開き直ってしまってはいかがだろう。

どうせ性のこだわりなんて、捨てようと思っても捨てられないものなのだから。

 

ハマれる何かに目覚めると世間体はともかく人生は楽しい

さて冒頭の問いに戻ると、あくまで読者に限ってのことではあるが、女性そのものではなく下着に執着してしまう方は、女性と縁がない方が多かった。

むろん一般の下着マニアの方がそうだというわけではない。そもそも男性誌の読者は童貞率高めである。

 

生涯女性と接したことがなく、恋愛や結婚なんて夢のまた夢。

そんな自分でもモノであれば愛せるーー。

 

実際、こういうタイプの人は確実にいた。

誤解がないように書いておくと、そのような方を卑下するつもりは全くない。

一番悲しいのは何に対しても愛情を持てないことであって、下着も立派な恋人である。

私は今年で55になりますが生まれて一度もセックスをしたことがありません。

せめて○○ちゃんの下着を懐に抱きながら眠りに落ち、夢の中で初体験ができたら…

そんなことばかり考えてしまいます。

こんな切ないお手紙をいただくと、何とか希望を叶えてあげたくなるのが人情というものだ。

雑誌付録の下着は中国の広東省あたりで買い付けたバッタ品であり、モデルが着用したのは撮影で使用した1点のみ。

その貴重なシロモノを思わず郵送してあげたことが何度もあった。

 

そうかと思うと、嫁も子供もいるけれど下着が好きでたまらないという「リア充」なお方もそれなりにいた。

どうせ着用済みでないことは分かっているから、風俗に行ってついた子に履かせてるという人。

はたまたカミさんに内緒でこっそり履くために買ってるのにサイズが合わないから取り替えてくれと電話してくる人。

 

つまり、下着に走る理由は人それぞれ。

それでは答えになっていないので読者諸兄の話を総合して分かったことを書くと、どうやらこの手の趣味には「目覚めの時」があるらしい。

しかも、40代や50代で覚醒してしまう方すらいるようなのだ。

 

いつから下着にこだわりを持つようになったんですかと聞くと、若い頃にミニスカブームがあってそれからだね、といった感じでみなさん嬉々として語ってくれるのだ。

なかには「この雑誌を買って下着の味を覚えた」なんていう答えもあった。

 

作り手としてこの上なく光栄ではあるものの、他人の人生を変えてしまった罪悪感も感じて、何とも返事に困ってしまう。

いずれにせよ、このことからフェチというのは後天性のものもあるのだと知った。

 

何事も覚えたての頃が一番楽しいものである。

そういう読者は大概年配で経済的にゆとりがあり、コンビニを何軒も回って大人買いをしてくださる。

やっていることは世間的には恥ずかしいことかもしれないが、楽しみを見つけて生き生きとしているのが電話でも十分に伝わってくる。

 

もし人生を味気ないと感じているなら、下着だろうが何だろうがハマれるものを探し出すのは、悪くないのかもしれない。

 

さて、最後に余談。

AVにしろエロ本にしろ、アダルトに携わる人間の多くが思うこととして、

「自分たちの仕事は性犯罪を助長するどころか、むしろ適度な発散として世間様のお役に立っている」

というものがある。

大っぴらには言えないけれど、紛うことなき本音というやつだ。

 

ところが業界人としては珍しく、自分はこの考えに疑問を持っている。

というのも、読者の中にモノホンの下着泥棒がいたからだ。

いつものように編集部の電話が鳴り、また読者かと思って取ると、どこかの県警の刑事だったりすることが数年に1度はあった。

 

「下着の窃盗事件で押収した品物の中に御社の商品が混じっていると犯人が供述していまして、お手数ですがご確認いただけませんか」

 

ガチの下着マニアがたまたま弊誌を手に取ったのか、それともこの雑誌で目覚めてしまい一線を踏み越えたのか。

雑誌がなくなった今となっては、後者でないことをただ祈るばかりである。

 


 

画像出典:pixabay

【著者】神坂縁

ライター、編集者、翻訳者。

週刊誌記者を経て某中堅出版社に入社。

雑誌の製作に携わっていたが、十数年勤めた会社で内紛が起こったことを機に退職&日本脱出を決意。

現在は国外の通信社に勤務し、アジアの政治・経済に関するライティングを本業としている。