犯罪者の結婚や就職は難しい? 裁判官に突き放された生活保護の男の裁判

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窃盗の裁判を傍聴しました。

この日の担当は、私の大好きなS裁判官です。

四角く浅黒い肌に四角いメガネ。険しい表情は仮面の様に微動だにせず、黒衣を着た暴力体育教師のような威圧感が特徴です。

 

裁かれる被告人は腰ひもと手錠を掛けられた40代の男。ガリガリに痩せていて、髪もぼさぼさで生命力の無い感じです。検察が被告人の罪状を読み上げました。

被告人は経済的な困窮により、スーパーで万引きをしたようです。万引きした商品はお菓子や惣菜、缶コーヒーなど。なんというか、嗜好品?というラインナップです。

 

そのことについて検察もツッコんでいました。

「百歩譲っておにぎり一個盗むんならわかりますよ!なんで缶コーヒー、しかも5缶パックって・・」

「缶コーヒーが好きなんですよ・・・それに生活が辛くて。。」

 

力なく答える被告。

生活保護になってしまったのは、いろんな理由があるのかもしれません。

働けない、頼る親戚もいない、計画的にお金を管理できない。

この被告人も1人暮らしで、兄弟はいるのですが見放されている状態でした。

 

「生活がつらいといいますが、あなた、1万円のハーモニカ購入してますよね?」

え、ハーモニカ?

 

淋しいから1万円の高級ハーモニカを購入した被告

1万円のハーモニカを新聞広告で見て購入したという被告。

高級なハーモニカであり、初心者にも安心の教材がついているというものでした。

 

アマゾンで検索してみると、ハーモニカの相場は大体5千円程度です。

1万円となると、最高級、というランクになっています。教材付きで1万円はそれほどぼったくりではないかもしれません。

問題は被告人が生活保護でありながら、そんな商品を買っちゃったというところでしょう。

 

「1人暮らしで話す相手もおらず、淋しかったんで買いました・・・」

「でも、市内に兄弟がいますよね?」

「絶縁状態なんです・・・」

 

家族から見放され、1人アパートに住む40男。想像するだけで淋しいものです。

そこにハーモニカはぴったりとくるものがありますが、やはり生活保護で購入するのはちょっと違和感がありました。

もし、天涯孤独の身で、1人アルバイトをしながら世を忍び、懐にあるハーモニカが唯一の淋しさを癒す相棒、というのなら「わかる!むしろ、良い!」と納得します。

しかし被告人にあるのは、どこまでも甘えの発想です。

働きたくないし、助けを求めるのも嫌。という情けない男にS裁判官が怒りの雷を落としました。

 

そこまで言うか!裁判官の怒りの鉄槌

裁判はスムーズに進み、検察が求刑1年6か月を求めます。

普通だったらここで裁判は終了し、日程を定めて判決は後日という流れでしょう。

ですがS裁判官はそんな事に日時を費やす人ではありませんでした。

 

「じゃ、15分休廷して、その後に判決をしますから」

これは即日結審といい、その日のうちに判決までやりきってしまう手続きです。

傍聴人としてもありがたいシステムです。

 

今回の被告は初犯ですし、執行猶予が出るのは素人でもわかりました。

そのとおりS裁判官は「執行猶予3年」を言い渡し、有罪判決。

この期間中に再犯すると、本当に刑務所に入れられますよ、と被告に注意してから、怒涛のS裁判官節が炸裂しました。

「もう40代のいい歳でしょ?少しは先のことを考えて生きたらどうなの。」

「・・・はい」

「飲みたいので盗んだ、淋しいからオモチャを買ったって・・・。欲望のままに生きているあなた、ここままだと一生ずっと独りぼっちだよ?」

反論のしようがありません。被告人はしょんぼりとうつむいています。

 

お前に足りないのは「人生をよく考える」事だと説教をしているわけです。

人生をよく考える。S裁判官が言ったことが胸に響き、その余韻を残したまま裁判所を後にしました。

 

まとめ:お叱りの言葉を頂戴して

初めてこの裁判を傍聴した時に、裁判傍聴の深さに触れたとおもいます。今では自分も40代となり、この時の被告と同じくらいの年齢になりました。

そこで思うのは、おっさんになるほどお叱りの言葉って貰わないんですよね。成長なんて期待されないわけですから、どんなヘマをやらかしても無視されたり、事務的に処罰されるだけ。悲しいものです。

 

恐らく、この被告も同じだったんじゃないでしょうか。

もう叱られることも無くなり、生活保護でやさぐれながら生きていく。スーパーで万引きすることや、生活保護でハーモニカを買うことに対して何も感じなくなってしまうのでしょう。

精神が腐って行くだけの人生です。

 

S裁判官の言葉は、被告を貫いて、傍聴席にいる私にも響きました。

今はいいかもしれないけれど、本当に将来のことを考えて行かないと、いつか独りぼっちになっちゃうよと。

 


 

【著者プロフィール】

ライター名 : 野澤 知克

自営業(飲食店)を営みながら、ふとしたきっかけで裁判傍聴にハマった傍聴ライター。

現在は兼業ライターとして、介護の仕事をしながら裁判所に通う毎日。

事件を通して人間の「生き方」と向き合ってます。

Twitter:@hatinoyado

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