新婚早々に不倫されても夫と別れないと決めた若妻の話〜情事〜

出典:外務省「海外邦人事件簿

 

「実は、3年前に何があったかと言うと、夫に不倫されたんです…」

 

と聞かされて、ようやく合点がいった。

私よりもずっと年下の同僚である彩音ちゃんから夫婦関係について相談を受けていたのだが、夫の不倫という肝心なことが伏せられていたのだ。

そのため、ずっと勘違いしたまま的外れなアドバイスをしていたことに気がつき、思わず苦笑いしてしまった。

 

問題の発端となった出来事を知らされないままに、

「私はちゃんと話をしたくてもいつも面倒がられて、夫とは家族計画とか将来に向けての話し合いがちっともできないんです」

 

「彼は付き合っていた頃とはすっかり変わってしまいました。結婚して幸せだった時間は少しの間だけ。結婚後しばらく経つと、夫は『俺は独りになってやり直したい』と言うようになって、私は何がいけなかったのか訳が分からなくて…」

 

「彼がそう言うので離婚について何度も話し合ったんです。でも、夫は『独りになりたい』と言う割には離婚届すら取ってこないし、具体的に何もしようとせず、しばらくすると何も言わなくなります。

そうやってうやむやになったかと思うと、又『別れたい』と言い出すんですよ。この3年間その繰り返しで、その度に私は振り回されて、もう疲れてしまって…」

 

などと聞かされていたものだから、私はてっきり、世間知らずの若い彼女は運悪くモラハラ男に引っかかってしまったのだと気の毒に感じ、同情を寄せていた。

 

交際中は愛情深く情熱的だった彼女の夫は、結婚した途端に態度を豹変させ、離婚を持ち出しては彼女を追い詰める精神的DVを繰り返してるのだろうと。

そのため可哀想な若妻は離婚を考え悩んでいるのだと思い込んでいたのだ。

 

まだ20代の若さで容姿も可憐な彩音ちゃんが人生をやり直すのはちっとも難しくない。

本人さえその気になれば、すぐさまフルタイムの仕事を見つけて自立することもできるだろう。

男が放っておかないので次のパートナーもたやすく見つかるだろうと思われた。

 

足りないのは現状を打破する覚悟と離婚に関する法律の知識だけだと考えた私は、彼女が利用できるサポート制度や市役所の相談窓口の連絡先などをリストにして渡していた。

しかし、ことの発端が派手な夫婦喧嘩による夫婦仲の亀裂と、その後の夫の不倫だと打ち明けられれば、これまで聞かされていた話の印象はガラリと変わってくる。

 

要するに、彼女の悩みは「痴情のもつれ」なのだった。

 

これまでは秘密にしてきた「夫に裏切られた」という肝心要の事実を話したことですっきりしたのだろう。

彩音ちゃんは堰を切ったようにこれまでの経緯と自分が受けた心の傷、浮気相手への恨みと夫への想いについて話し始めた。

 

日頃は自分を抑え、心の内を隠す人ほどいざ心情の吐露を始めると止めどなく熱がこもる。

興奮した様子の彩音ちゃんには気が鎮まるまで思う存分喋ってもらい、一通りの話を聴き終えたところで、私は結論を言った。

 

「別れることないじゃないの。離婚しなくていいと思うけどね。とりあえず、今のところは。」

 

すると、彼女は全く思いがけないことを聞いたという様子で、目を見開いた。

 

「えっ?別れなくてもいいんですか?私はてっきり、離婚を勧められるとばかり思ってたんですけど…」

 

私はなんだか可笑しくなってしまい、軽く笑いながら説明した。

 

「だって、あなた。さっきから何度も『私はやっぱりまだ彼を好きで、こんなことがあっても一緒に居たいと思ったんです』って繰り返してるじゃないの。そんなに好きな男がせっかく目の前に居るのに、わざわざ別れる必要ないじゃない。

夫にそこまで惚れ抜いてるって、素晴らしいことよ。

3年も夫婦で痴話喧嘩してるだなんて、二人とも若くて体力があるんだなぁと感心しちゃうけど、それだけ相手に対する想いも深いってことよね。もうね、やり切ったと思えるまでやってみたら?

『私は彼を好き』という今の自分の気持ちに、素直になってみたらどうなの?」

 

もちろん、夫の方が心底彼女と離婚したがっているのであれば、いかに彼女が彼に惚れていようとも自由にしてあげるべきなのだ。

だが彼の方でも、本気で妻と別れようとはしていないのだ。

本当に別れるつもりならとっくに家を出ているだろうし、妻には触れもしないはず

『別れたい』とグズグズ言いながらも毎日家に帰って妻の作った食事を食べ、しっかり子作りまでしているのは、別れる気なんぞ無いからである。

 

ちなみに、ことあるごとに離婚をチラつかせるのはどうやら彼の方ばかりではないようで、彼女の方でも

「分かりました。そんなに言うならもう別れましょう」

と言っては、負けじと応戦しているとのことだった。

 

彼が『独りにしてくれ』と離れようとする度に、彼女が『いやよ、待って』と追いかけて、彼女が『もう終りにしましょう』と諦めかける度に、彼が『悪かったよ』と抱きしめる。

気に入らないことがある度に、そうやっていちいち「離婚」のカードを互いに振りかざすのは、相手の気持ちを試し、自分を尊重させようという魂胆があるからだ。

 

彼女は実にしっかりしていて、仕事中にミスをしているところなど見たことがなかったので全く気付かなかったが、たびたび夫と朝まで痴話喧嘩しては寝不足のまま仕事に来ていたそうだ。

そんな生活を続けて早3年とは、「あっぱれ」と言うより他にない。

私だったら半年と持たずに別れているだろう。

私の場合は、愛してはいても消耗するパートナーは心身の負担であり、日常に支障が出るようなパートナーシップは生活の邪魔だと考えてしまうのだ。

 

男も女も星の数ほど居ると世間は言うけれど、くんずほぐれつ恋し合い、傷付けあい、それでも離れられずに愛を育んでいける相手とは滅多に出会えるものじゃない。

「裏切りが許せない」

「安定しない夫婦仲に疲れてしまった」

との思いは強いだろうが、彩音ちゃんのケースでは、今無理をして恋しい夫と別れたところで、猛烈な未練を引きずるであろうことは目に見えている。

 

「もうすぐ子供も生まれて家族になるのだから、意地を張らないで、旦那さんに好きな気持ちを伝えてみたら?パートナーに自分の素直な思いと愛情を伝えることは、悔しいことじゃないからね」

 

と、彩音ちゃんに最後のアドバイスをすると、彼女はハッとしたように振り返り、口元を綻ばせた。

 

「そうなんです。私は夫を好きだけど、それを言うのはずっと悔しいって思ってました。でも、彼を好きなこともそれを伝えることも、悔しいことじゃないんですね。

心が晴れる思いがします。ゆきさんに相談してよかった」

 

「相談」をもちかけながら、私の意見など関係なく彩音ちゃんの中には答えが用意されていた。

彼女は夫を愛していて、離れたくなどないのだ。

ならば、好きな男に意地を張って思いを伝えられないまま溝が深まり、相手を失ってしまうことの方がよほど悔しいに違いない。

彼女が剣を収めれば、彼も鎧を脱ぐのではないだろうか。

 

私はティーンエイジャーの頃、森瑤子の小説やエッセイが好きで、貪るように読んでいた。

彼女の書く小説中の女は大抵、プライドが高く気取っていて、愛し合って結ばれたはずのパートナーとの仲は冷え切り、愛に飢えて不倫をしている。

しかしながら、不倫と不貞によって満たされることはなく、情夫を得てもなお渇いた心を持て余したままなのだ。

 

夫が自分を裏切ったり、最早自分が夫から新婚の頃と同じようには愛されていないと感じると、女の心は渇いて頑なになり、優しさが失われていく。

そして、心とプライドが傷つくのを恐れるあまり素直になれず、

「本当はあなたから愛されたい」

「あなたと仲良くしたい」

という叫びにも似た本心を隠してパートナーを容赦無く攻め立て、結婚生活を台無しにしてしまう。

 

「男と女というのは、相手より多く愛した方が負けなのだ」

というのが、森瑤子の恋愛の美学なのである。

 

そうやって痩せ我慢をし、パートナーシップを犠牲にしてでも自分のプライドを守り抜こうとする女が精神の自立したハンサムな女として描かれている。

そしてまだ恋愛を含め人生経験に乏しかった私は

「なるほど、より多く愛した者が負けるんだな」

と、森瑤子的美学を鵜呑みにしていた。

 

あれから35年ほどが経ち、経験から自分なりの美学を得た今の私は思うのだ。

「一体何の勝ち負けなの?」

だと。

 

相手に多くの愛を与えることは負けではない。

そもそもパートナーシップを育む過程において、勝ち負けを争うことに何の意味があるのだろうか。

 

森瑤子がベストセラー作家として輝いていた時代に、世の女性たちが

「常に私の方がより多く愛されて、愛により男を屈服させたい」

という考えに共鳴し、それが叶わない哀しみと痛みに共感したのは、当時はまだ女性の自立が難しく、男に愛されることが女の価値のほとんど全てだったからだろう。

 

森瑤子の処女作「情事」は、時を経ても色褪せぬ名作だ。

しかし最早私には、森瑤子的いじっぱりな女たちが見習うべきハンサムな女性であるとも、キザったらしく痩せ我慢な男たちが魅力的で素敵だとも感じられないのだった。

 

若い人たちは、古い時代の男女観に囚われる必要などないだろう。

「自分が相手に愛されているか」

ではなく、

「自分は相手を愛しているか」

に軸を置き、素直に生きて欲しいと思う。

 

 

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マダムユキ
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