10年間セックスレスに悩んだ離婚間際の主婦が電車の痴漢に恋した話〜恋に落ちて〜

トーストをくわえて遅刻しながら誰かとぶつかる恋の始まりを、少女時代に読んだ漫画で擦り込まれてしまったせいかもしれない。

ある年齢以上の女は、通学や通勤に「運命の出会い」を期待するものだ。

 

私の元友人にも一人、通勤途中に「運命の人」に出会ったと信じた女がいる。

ただし、彼女の言う「運命の人」は、私が聞いただけでも既に3人目だったのだが。

 

以下は、通勤電車で出会った痴漢に本気で恋した女が、私に心情を吐露した会話の一部である。

 

「次の恋は、直感を信じてみようと思うの。今までの私は、ちょっと頭で考えすぎていたから恋が上手くいかなかったんじゃないかな。

実はね、今、ちょっといいなと思ってる人がいるんだよね。特にハンサムでもないし、体型は中肉中背で、スーツ着てるふつぅ〜のサラリーマン。

今まで好きになったことはないタイプなんだけど、でもね〜、なんか、いいんだよね。

直感ていうのかな? 第六感?

 

彼は、通勤電車の中で会う人なの。今の派遣先に行くようになってまだ1ヶ月だけど、同じ時刻の決まった車両に彼が乗ってくるのよ。毎日気がついたら必ず彼が隣に立ってるか、真後ろに居るんだよね。

 

朝の上り電車は満員だから、体が密着するでしょう?

最近は暑くなってきたし、スーツのジャケットを脱いだらお互い半袖だから、腕だけとはいえお互いの素肌がずっと触れ合ってるのよ。ドキドキしちゃう。

 

しかねも、あまりにも車内が鮨詰めの時は、さりげなく彼が腕をつぱって私が潰れないようガードしてくれてるの。

ねぇ、彼ってすごく優しいと思わない?

彼の優しさに触れて、『この人なら信用できる』って思ったのよ。

 

彼のことは心の中で『電車の君』って呼んでいるわ。

私ね、なんとなくだけど、彼は私の運命の人だと感じるんだよね。通勤電車の中で運命の出会いなんてあると思う?

 

『恋に落ちて?』って映画? ふーん。知らないけど、そうなんだ。お互いに家庭のある男女が通勤電車の中で運命の恋に落ちる話なら、私たちと同じね。あぁ、やっぱり。これはまさに映画のような運命の恋なんだわ…」

 

出典:厚生労働省「賦課(ふか)方式と積立方式

 

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「やったわ!遂に彼が勇気を出してくれたの!

今日電車を降りる間際に『よかったら、今度飲みに行きませんか?』って誘われちゃった。

電車を降りた駅のホームで彼の名刺をもらって、お互いの番号とメールアドレス交換した!やったー!!!

 

私たちの周りを流れていく人の波が、まるで スローモーションみたいだった…。

誰もが急いでいる通勤時間帯のホームで、私たち二人だけが向き合って動かないんだもの。みんな私たちを不思議な顔で見ていくの。彼は『なんでこいつはこんな綺麗な人と喋ってるんだ?』って思われてたはずよ。ふふっ。

 

来週飲みに行く約束をしたわ。彼はどんなお店に私を連れて行く気かしらね?」

 

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「おはよう!いよいよ今日よ!彼と仕事帰りに待ち合わせてるの!

 

うん、ありがとう。絶対楽しい時間を過ごしてくるね。分かってる。大丈夫。同じ失敗はしない。絶対ホテルには行かずに帰ってくるから。

キス以上のことはしないで帰ると約束する。じゃあ、帰ったら報告するから待っててね。

行ってきまーす!」

 

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「ダメだった…。約束守れなかったわ。

彼があまりにも情熱的すぎて…。キスだけで帰ろうとしたのよ。でもね、抱き合って、キスしながら愛撫されて、『俺はどうしても今夜このまま帰れない』って口説かれたの。『君だって分かってるはず。俺たち運命なんだ』って。

抵抗できなかった…。だって、私も彼と同じ気持ちだったから。

 

そんなにガッカリしないでよ。彼とは絶対これきりになったりしないって自信があるから。

最初から話すから聞いて頂戴。

 

まず、昨日私と彼は仕事帰りに落ち合った後、近くの居酒屋に入ったの。気取ってないお店。そういう無理して背伸びしてないところも自然体でいいなと思った。

それでね、席につくなり、彼は『俺は結婚してます』って言うのよ。

 

『あっ、これは、彼は嘘がつけなくて、私に対して誠実であろうとしてるんだ』と思ったのね。だって、そうでしょ?

 

それで、『私も彼の誠実さに応えなくちゃいけない』と思ったわけ。『彼が嘘をつかないなら、私も隠し事はしちゃいけない。ちゃんと向き合わなくちゃ』って、背筋が伸びたわ。

 

それで、私も指輪は外してるけど結婚していること。けれど、夫とは離婚調停中であり、もうじき離婚すること。娘が一人いて、私が引き取る予定であることを話したの。

彼、驚いてた。特に私が35歳だってことに。私を20代で、独身だと思っていたみたい。そんなに違わないけど、『まさか年上だとは思わなかった』だって。ふふっ。

 

そこから、私のこれまでの人生について、一から全部話したわ。彼には私の全てを知って、私がどんなに素晴らしい女性かを分かって欲しかったから。

 

私たちの間に駆け引きなんて必要ないの。

私と彼はね、誕生日が4日しか違わなかったのよ。すごいと思わない?運命的でしょ?

そうやって話をしながら二人の共通点を探していく中で、『私、あなたとは運命を感じる』って言ったのよ。

そしたらね、彼も『分かる。俺も運命的なものを感じてる。俺は普段絶対に、こんな風に女性に声をかけたりしない。こんなことをするのは今回が初めてなんだ』って。

 

信じられる?私たちお互いに運命を感じていたのよ。私は彼にとって、彼は私にとって運命の相手だったの。なら、運命には逆らえないじゃない?

 

ラブホテルに入って、何度も愛し合ったわ。彼は素晴らしかった。

ホテルを出る頃には終電を逃してしまっていたから、タクシーを拾ったの。

そしたらね、彼はタクシーに乗るなり指輪をはめて、奥さんに『今から帰る』と電話をかけたんだよね。それを隣で聴きながら、私、奥さんに優越感を感じちゃったな。

 

タクシーを降りてすぐに、『今夜はとっても楽しかったです!おやすみなさい」って彼にメールしたわ。私が楽しんだってことを伝えて、彼を安心させてあげるためにね。

 

今朝も『おはようございます。次はいつにしますか?』とメールしておいた。返事はまだだけど、色々考えてくれているはずよ」

 

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「…彼、今朝も電車に乗ってこなかったのよ。今までは毎日会っていたのに、どうしたのかな。

次のデートも決まらないし、電車でも会えないから、『お昼休みに待ち合わせて、一緒にコーヒーでも飲みませんか?前回はご馳走してもらったので、コーヒーは私が奢りますね!』とメールしたの。

彼はシャイな人だから、私の方が気軽な雰囲気で誘ってあげるのがいいと思って。

 

私たち、これから障害を乗り越えて結ばれるためには、もっと多くのことを話し合わなきゃならないでしょ。

私は旦那ともうすぐ別れるけど、彼はこれから奥さんと離婚について話し合わなきゃいけないから、大変だと思うのよ。だから、例え少しの時間でもできるだけ頻繁に会って、励ましてあげたいの」

 

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「彼、急に仕事が忙しくなってしまったみたい。

電車で会えなくなったのは、異動になって勤務先の支社が変わったそうなの。だからもう同じ通勤ルートじゃないし、遠くなったからお昼のコーヒーも無理だって。彼は真面目で誠実な人だから、本当に今は忙しいのだと思うわ。

 

私ね、考えたんだけど、もしかしたらお金の問題かもしれない。彼は普通のサラリーマンだから、二人で食事して、そのあとホテルに行くお金を頻繁には工面できないんじゃないかしら。だけど、彼にもプライドがあるから、好きな女に『お金がないから逢えない』だなんて言えないのよ。

 

私は割り勘でもいいし、彼の負担にならない方法を早く話し合って決めたいわ」

 

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「ずっと会えないまま、だんだんメールの返信も来なくなった…。

思い切って電話もしてみたんだけど、出てくれず、かけ直してもくれなくて。

 

違う!最初のデートでセックスしたのが失敗だったんじゃない!

恋愛の教科書みたいなこと言わないで!

 

私たちは『運命』なのよ。そういう普通の恋愛セオリーは、私たちのような特別な仲には当てはまらないの!

 

自分のことを喋りすぎて、相手の知りたい気持ちを満足させてしまった?

 

ゆきちゃんは分かってない。私を知れば、絶対に一晩の遊び相手にはできないはずなの!

 

彼がこういうことを繰り返してるだなんて、彼を知らないくせに勝手なこと言わないで。

 

彼は真面目で、誠実な人よ。私は数ヶ月の間、毎日彼と電車で会っていたんだから、彼をよく知ってるの。

彼はシャイな人なのよ。彼が大胆だったのは、私という『運命の相手』に出会ってしまったからで、本来は自分から女性に声をかけたりできるような人じゃないの!

 

彼は怖くなってしまったのよ。彼にとって私は理想の女だったはずなのよね。あまりにも理想的すぎたからこそ、のめり込むのを恐れたんだわ。

 

私は彼を信じてるし、運命を感じた自分の直感を信じてる。彼とはいつか必ず又会えるようになるわ。例え5年後でもいいの。彼はきっと私に連絡をくれるはずよ!」

 

電車の中で運命の恋に落ちたと信じる友人に、私が通勤電車で愛を育む男女の例として持ち出した「恋に落ちて」は、不倫の恋を描いた映画の金字塔だ。

1980年代のニューヨークを舞台にし、ひょんなことから出会った男女が通勤電車で再会し、語り合い、少しずつお互いを知りながら思いを募らせる大人の恋物語である。

 

特筆すべきは、彼らが真剣に相手を思うあまりに「寝ない」ことなのだ。

主人公のモリーとフランクは、相手を大切に思っているからこそ簡単には一線を超えられない。

だからこそフランクの妻は、夫がしているのは浮気や不倫ではなく本物の恋なのだと知り、許せなかったのである。

 

毎日特定の女性の隣か後ろに立ち、満員電車なのをいいことに体を押し付けてくるような男は、「電車の君」ではなく「電車の痴漢」である。

そんな男に本気で恋するだなんて、不幸な結婚生活のせいでスキンシップに飢えていたとはいえ、判断力を失い過ぎだ。

 

そう口を滑らせた私は友人から絶交されてしまったが、例え相手が不道徳な輩であっても、彼女がもう少し男心を理解し、恋の道に通じていたなら、一度きりの関係で終わりはしなかっただろう。

 

恋はセックスに至るまでの時間が一番楽しい。

惹かれ合う者同士がベッドに行くのは簡単なことなのだ。

しかし、そうなれば胸が高鳴るときめきの時間が終わってしまうのも、又あっけないほど簡単なのである。

 


マダムユキ
ネットウォッチャー。最高月間PV40万のブログ「Flat 9 〜マダムユキの部屋」管理人。
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