口の軽い私が、この秘密だけは墓場まで持って行こうと心に決めているお話を白状します。
親友にも、ガールズトークでも、打ち明けられないでいる超トップシークレット。
そろそろ時効だから、まあいっか(笑)。
それは、夫の友人と恋に落ち、一線を越えたあの夜の出来事のこと。しかも、夫が眠る部屋の真下で。
ああ、こうして文字にするだけでも、女性ホルモンが分泌されます♡
ふたりの愛のキューピットは、夫だった。
Kさん(43歳・IT系会社の社長)と出会ったのは、新しい案件の打ち合わせ現場。
「な?佐藤浩市に似てるだろ?」と自慢げにKさんを紹介する夫。
「勘弁してくださいよ〜」と照れ笑いするKさん。
たしかに、私の大好きな佐藤浩市さんに横顔が似ていないこともない。
まあ、似ている似ていないは抜きにしても、なかなかのイケメンさんだ。
私のまわりにはいないタイプで、笑顔がさわやかな体育会系。
眩しい…まともに目を合わせられなかった。
Kさんと夫は仕事を通して最近知り合った友人。
彼に出会う前から夫に、
「元サッカー部のキャプテンで、学生時代はファンクラブがあったほどモテたらしいよ」
「一緒にスナックに行くと、キレイな女の子はみんな彼に持っていかれちゃうんだよね」
などと、Kさんのモテっぷりをさんざん聞かされていた。
大抵の女子は「モテる男」にめっぽう弱い。
彼の真価はさておき、女子が認める男として、株が一気に上がる。
私も類にもれず、Kさんに会う前から期待で胸は膨らむばかり。
夫の呪文ですっかり魔法にかかってしまったようだ。
さらに、追い討ちをかけるように、
「Kさんが言ってたぞ、奥さんって知的美人ですよねって」
皮肉にも、夫のこうした言葉でますます彼を意識することになる私。
私とKさんの愛のキューピットは、間違いなく夫だろう。
最初は3人で会うことが多かったけれど、彼との仕事が決まってからは、ふたりきりで会うことの方が多くなった。
ファミレスでの打ち合わせ、接待ゴルフ、打ち上げなど、仕事をいいことにかなりの時間を一緒に過ごした。
ほどなくして、私たちは恋に落ちる。
ただし、あくまでプラトニック。
夜の街で連絡を取り合い、途中から合流することはあっても、ふたりきりのデートはなかった。
私は誘われたら断らない心の準備はできていたけれど、彼にその覚悟はなかった。
一線を越えようとした夜
年の瀬、夫と彼と仕事仲間数人で、忘年会をしようってことになった。
近所の居酒屋さんでしこたま呑んだ後、2次会はわが家で。
みんなでこたつを囲み、テレビを観たり、他愛もない会話をしたりして、それぞれに楽しんでいた。
別の企みを持つ私たちは、夫の目を盗んでは、こたつの中で手を握ったり、足をからめたりして、スリルを味わっていた。
彼は酔いにまかせていつになく大胆だった。
0時をまわった頃にみんなは帰っていったが、泥酔していた彼はわが家に泊まることに。
私が客間で彼の布団を敷いていると、夫は「俺はもう寝るよ」とふたりを残してさっさと3階の寝室へ行ってしまった。
彼は夫がいなくなると、肩の力が抜けた様子で、敷きたての布団に気持ちよさげに寝転がった。
私がこたつに入ってテレビを観ていると、布団を持ち上げて、
「こっちに来れば?」
と隣りに誘ってきた。
私は少しずつ距離を縮め、最終的には布団の中へ。
キスしたりされたり、サッカーで鍛えた自慢の腹筋を触ってはしゃいだりと、ひとしきり甘い時間を過ごしたふたり。
ただ、ひどく酔っ払っていたからか、頭上で寝ている夫におじけずいたのか、彼のアソコはいざという場面で役に立たず、何度か試みたものの、一線は越えられなかった。
朝起きると、完璧な二日酔い。
どんよりと重い頭で昨夜の記憶をたどりながら、ニヤつく私。
いやいや、色ボケしてる場合じゃないと、喝を入れて起き上がる。
夫が起きてくる前に彼の様子を見にいかねばと、階下へそろりそろり。
すると、床にオレンジ色のものが…。
「んっ?」「なになに?」
くるくると丸まっているが…パンT?!昨夜まで履いていたはずの私のパンTに間違いない。
「マジかーーーーーっ!」
心の中で雄叫びをあげながら、静かに拾い上げてポケットにしまう。
よりによって有力証拠となるパンTを落とすなんて、あり得ない!おかげで目が覚めた。
昨夜、どんな状態でこの階段を上ってきたのか、頭を抱えながらまたもニヤついてしまう私。
ああ、すべてが甘ったるい。
久々のこの感覚に悦びがこみ上げてきた。
客間に彼はもういなかった。
布団が雑にたたまれていた。置き手紙も何もない。
慌てて出て行く様子が目に浮かぶようだった。
その後もしばらくは、好きだの嫌いだの中学生みたいなやりとりをして、青春気分を謳歌した私たち。
普段は夫の友人として、仕事のパートナーとして、大人な姿勢を崩さない彼だが、その反動からか、酔っ払って電話をかけてくることが多かった。
金曜の夜はそれを期待して、ケータイから目を離せなかった私。
いつ誘われてもいいように、深夜2時をまわるまで化粧を落とさずに待機していた。
aikoのカブトムシをヘビロテしたっけ。
一線を越えるチャンスは何度かあったけれど、彼が押せば私が引き、私が熱くなると彼が鎮めるの繰り返し。
結局、あの夜のBどまり。
ピークを越えて勢いをなくしたふたりの恋の炎は、やがて自然消火してしまうのでした。
今振り返ってもゾッとする、あの夜の出来事。
いつ夫が様子を見に来てもおかしくなかったし、もし見つかっていたらとんでもない修羅場になっていたはず。
その一方で、今でもオレンジのパンTを手にするたびに、あの甘ったるい感覚がよみがえり、ニヤついてしまう懲りない私もいます。
私に言えない、夫の秘密も。
夫の秘密…それは、Kさんと私が恋愛関係にあったことを、夫はうすうす勘づいていたはずなのに、いまだに知らないふりをしていること。
ややこしくてごめんなさい(笑)。
もちろん、気づかれないように細心の注意を払っていたけれど、そうはいっても、3人の距離が近すぎて、隠しても隠しても、あふれ出てしまうこともあるわけで。
私が夫だったら100%気づくし。
けれど、それを口に出してしまったら、夫自身も浮気をしている手前、自爆&家庭壊滅状態になることが目に見えているから黙っていると思われ、まるで米中の冷戦状態。
まあ、私もそれをわかっているから、好き勝手なことができるのだけれど…。
それにしても、夫婦関係ってホント、絶妙なバランスで成り立っているとつくづく思う今日この頃。
わが家なんて、足の踏み場もないくらい秘密だらけです。
ときとして、盾にも矛にもなる秘密。
世の旦那さま、感情にまかせて矛を振りかざしたら、まさかの盾で殴られることもあるから、使い方には十分、気をつけてくださいね。
結論
秘密のない人生なんて、つまらない。映画やTVドラマでありがちな、良心の呵責に苛まれて秘密を打ち明けてしまうなんて、もったいない。
つい先日もこんなことが…。
客先でチヤホヤされる若い女性スタッフ。
まあ、オジサマ対策の要員として投入されているのだけれど、すっかりアウトオブ眼中の空気に、年頃の私はちょっぴり落ち込んだりもするわけで。
けれどそんなとき、「秘密」が救いの手を差し伸べてくれるのです。
彼との密会にて。甘いささやき、BVLGARIの香り、内腿の筋肉痛…。打ち合わせの最中、帰りの車中で、余韻に浸るようにひとりニヤついてしまう。落ち込んでいる暇はない。ビバ秘密!今日もありがとう(笑)。
一生を季節で喩えるなら、初冬に片足を突っ込んでいるようなアラヒフの私。更年期や親の介護問題で心を煩わせることはあっても、夏のギラギラとしたアバンチュールに心が揺さぶられることはもうないでしょう。
そんな私にとって「秘密」は、どんよりとした冬空の雲間から射す、希望の光。
これから迎える薄暗い冬の日々も、その光をたよりに何とか生きていける…と自分に鞭打つ毎日です。

画像提供:内閣府「STOP!ネット犯罪」
【著者】iroiroeyes
ライター歴25年以上。
年齢を重ねるごとに可愛げがなくなり、図太くなるばかり。
恋愛でしか得られない激しい感情の起伏と、見たこともない自分との出会いを生きる糧にしたいから、いくつになっても恋愛に翻弄される純な女でありたいと願うアラヒフライターです。
