「マルティンとは、どうやって知り合ったの?」と僕はイサベラに尋ねた。
イサベラは19歳の女学生で、最近マルティンという25歳の男と付き合い始めた。
彼らは年齢も異なれば、同じ学校に通っているわけでも、共通の知人がいるわけでもない。
普通に生活していれば、知り合いになる要素がないのだ。
「インスタグラムよ」
日本の裏側アルゼンチンでも、今や人々の出会いの場はマッチングアプリやSNSになっている。
特に、ここではインスタグラムで恋人を探す人が多い。
話を聞くと、インスタグラムはフェイスブックとマッチングアプリの良いとこどりだそうだ。
なるほど、確かにその通りだ。
ある意味で、インスタグラムは自己表現する日記のようなもの。
デートアプリよりも相手のことを深く理解できれば、フェイスブックよりも気軽に見知らぬ人とつながれる。
僕はデートアプリを使ったことないものの、自称ネット交際のパイオニアである。
言語交換サイトでアルゼンチン人と知り合い、一度も対面したことないまま、交際開始。
そして、結婚までしたのだから。
それでも当時は、ネットで知り合ったと言うと、白い目で見られることが多く、僕も心のどこかでなれそめを話すのに気後れしていた。
当時の僕とは対照的に、イサベラは空よりも青い瞳をまっすぐ向けて、マルティンとのなれそめを話してくれた。
今やネットで恋人を見つけるのが当然の時代になったのだ。
「シュンたちもネットで出会ったのよね。まさかアルゼンチンに運命の人がいるとは思わなかったでしょ」
とイサベラは笑った。
テクノロジーが発達した現代では、インターネットという大海で無数の魚(恋人候補)を見つけられる。
「ネットで恋愛なんて…」
という姿勢のままでいるのはもったいない。
小さな池と大海で釣りをするのでは、魚の数が天と地ほども違うのだから。
今どきの、友達でも恋人でもない曖昧な関係性のふたり
イサベラはマルティンとのなれそめを詳細に話してくれた。
初めはマルティンが彼女の投稿に反応したり、ストーリーを欠かさず見ていたりしたこと。
マルティンをフォローして数日後、インスタでDMが送られてきたこと。
そしてDMに返信した理由。
「いつも投稿に反応してくれたから印象的だったし、何より嬉しいじゃない。素敵なコメントやメッセージもくれたからね」
イサベラがDMに返信した理由は、単純にマルティンが彼女の承認欲求を満たしてくれたから。
見た目や性格に惹かれたわけではなかった。
モテる男というのは、つくづく女性の承認欲求を満たすのが上手い。
イサベラとマルティンがデートをしたのは2回だけ。
ふたりは毎日のようにDMで会話をし、ライフスタイルや性格の面でも互いの相性がいいことはすでに分かっていた。
だから、デートに時間をかける必要がなかった。
対面デートは、最終チェックの意味合いが強かったのかもしれない。
こうしてふたりは恋人として交際を始めた、と僕は思い込んでいた。
数日後、イサベラがマルティンを連れて、我が家にやってきた。
マルティンは坊主頭で、やや太めの体にはびっしりとタトゥーが入っていた。
趣味でラップ製作をしているらしい。
「君たちは互いにぴったりの恋人だね」
思わず僕は言った。
マルティンはイサベラの肩に手をまわし、イサベラはその手を握っていた。
「彼は私の恋人じゃないわよ」
イサベラは笑っていたものの、その目は氷のように冷たかった。
マルティンはどこか居心地が悪そうだった。
「えっ、あっ、そうなんだ。てっきり恋人かと思っていたよ」
深堀りすると大きなトラブルが発生しそうな気がして、僕はそう言うしかできなかった。
食後、僕とマルティンは外でマテ茶を飲みながら、彼の自慢の車を見せてもらった。
車高は低く改造されており、マフラーからは火が出るらしい。
だが、車のことはどうでもよかった。
僕はイサベラとの奇妙な関係性について聞きたかった。
「正直なところ、君はどう思ってるんだい?イサベラは彼女じゃないの?」
「イサベラとはキスもするし、本当に好きだよ。でも、一度も彼女の恋人と名乗ったことはないんだ。よく彼女に、私たちの関係性は何って聞かれるんだけど、ごまかしちゃうんだ。今、そういう曖昧な関係性は多いんだよ」
マルティンの言葉を聞いても、僕はある種の歯がゆさを感じていた。
セフレなら分かるが、彼らは精神的にもつながっているように思えた。
「純粋な疑問なんだけど、なぜ恋人にならないんだい?君がはっきりすれば、もう恋人になれるだろ。関係性は今と変わらないだろうし」
「シュン、まだ26才だろ。年寄りみたいなこと言わないでくれよ。真剣な関係じゃないから楽なんだ。友達と恋人のいいとこどりさ」
とマルティンは爽やかな笑顔を見せた。
イサベラがやってきた。
彼らと別れのハグを交わした後、ふたりは真っ赤な車に乗り込んだ。
エンジン音が闇夜を切り裂き、マフラーからは線香花火のような火が噴出した。
繰り返す破局と人生からの左スワイプ
ある日曜日、僕と妻はイサベラの家へ向かった。
炭火焼肉アサドに招待されたのだ。
到着すると、彼女の両親と兄弟が温かく出迎えてくれた。
しかし、そこにはいるはずのマルティンの姿がなかった。
しばらくすると、目をはらしたイサベラが眠たげに寝室から出てきた。
彼らは別れたのだ。
翌週、イサベラとマルティンはそろって我が家に遊びに来た。
数か月後ふたりは別れ、そして復縁した。
彼らは一年間ほど、破局と復縁を繰り返したのだ。
一度彼らがもめている様子を目にしたことがある。
原因はマルティンがインスタグラムで、他の女の子と話していたからだ。
マルティンは浮気していないと主張していたが、イサベラは嫉妬で怒っていた。
「もう他の人を探しなさいよ。彼は恋人じゃないんでしょ」
妻が何度目かの破局をしたばかりのイサベラに言った。
イサベラは酔っていた。
安い紙パックの赤ワインとコーラを混ぜ合わせ、一気に飲み干した。
「私もどうしていいのかわからないの!彼のことを忘れようとしたわ。それでも突然、君が恋しいってメッセージがくるのよ…!」
イサベラの目から、ぽろぽろと涙がこぼれ落ち始めた。
イサベラは、自身の素直な気持ちに向き合えていなかった。
とっくの昔から、どうしたいのかなんて分かりきっているのに。
ただ、SNSで亡霊のように追いかけるマルティンから、逃れられなかった。
「イサベラ、とっても簡単な質問するわね。あなたのデートアプリにマルティンが表示されたら、どうする?」
イサベラは机を見つめて考えていた。
それは30秒ほどの沈黙ながらも、僕は永遠に続くのではないかと思った。
「マルティンとは話さないわ」
そう言って、イサベラは左にスワイプする動作を見せ、泣きはらした顔に笑みを浮かべた。
それからはあっという間だった。
イサベラはマルティンに、あなたのいない人生を送ると告げ、すべてのSNSとチャットアプリで彼をブロックした。
こうして、イサベラとマルティンの関係性は終わりを迎えた。
どの時代でも、人々が求めるのは安心感ある恋愛
今はスマホひとつさえあれば、手軽に恋人候補を見つけられる。
その手軽さゆえに、傷つくことのないカジュアルな恋愛が流行っているのかもしれない。
だが、28歳の僕が知ったようなことを言うのも申し訳ないが、本当の恋愛は傷だらけになるものである。
互いに傷つけあい、慰めあい、その果てにバッドエンドもしくはハッピーエンドにたどり着くだけだ。
「僕たちはネットで付き合い始めたけど、君は僕と結婚すると思っていた?」
僕は妻に尋ねた。
「ええ。だって、私に会うためだけに、日本からアルゼンチンまで来てくれたから」
出会いの場が変わっても、愛の形は変わらない。
言葉や行動で、安心感と愛情を与え続けるだけ。
そして、関係性に具体的な名前を付けるのは、一番初めに安心感を与える行動なのかもしれない。
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出典:文部科学省「ケータイ&スマホ、正しく利用できていますか?」
【筆者プロフィール】
奥川駿平
1992年福岡県生まれ。立教大学卒。
2015年、当時付き合っていた彼女と結婚するため、アルゼンチン・ネウケン州へ移住。
2年間ほど現地で働いた後、2017年よりフリーライターとして活動中。
https://mobile.twitter.com/shunpeiokugawa
