恋に恋したままアラフォーを迎えた、かつて親友だった彼女の末路 〜後ハッピーマニア〜

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その日、佳代子はしびれを切らして、唐突に私の話を遮った。

「いや、もうそんな話はいいからさぁ。で、そっちはどうなのよ?恋愛の方は。私は今日あなたと恋の話で盛り上がるために来たんだけど」

と言われ、思わず素で

「は?」

と聞き返してしまった。

 

佳代子とは日頃からFacebookでやりとりをしていたが、こうして顔を合わせるのはおおよそ3年ぶりだし、私の離婚後に会うのは初めてだった。

なので、私の方は母子3人暮らしになった新しい生活の様子であったり、仕事についてかいつまんで報告し、少し前にドイツに短期留学していた彼女には、現地でどんな有意義な時間を過ごしたのかを尋ねていたのだ。

 

私たちが待ち合わせたのは大人しか居ない銀座のティールームで、周囲を見渡しても静かに談笑している落ち着いた雰囲気の客だけだ。だいたい私たち自身がアラフォーのいい大人だった。

佳代子の「恋愛の話で盛り上がろうよ」という提案が、自分たちにもこの場所にもまるで似合っておらず、二の句が告げずにいると、

「ねぇ、あなたは彼氏のことが好きじゃないの?ラブラブなら他人に話したくなるでしょう?」

と追い討ちをかけられた。私は

「はぁ…」

としか返事ができない。4歳年上の佳代子とは学生時代からの付き合いだが、20年前ならいざ知らず、今さら当時と同じことをしたいとは思えない。

しかし、佳代子はまさに学生時代の続きをしたかったのだ。

 

「ま、いいや。私はね、今新しい恋をしてるんだよね。今度こそ結婚するかもしれない」

前のめりで語り始めた彼女は、どうやら「あなたと恋の話で盛り上がりたい」訳ではないようだ。「盛り上がってる自分の恋の話をあなたに聞いて欲しい」が正しいだろう。

「今年の春さ、撮影の仕事でスリランカの空を撮りに行ったんだよね。彼は現地で撮影協力してくれた空軍パイロットなの」

 

佳代子はフリーランスで仕事をしており、テレビコマーシャルの撮影の現場で、長年に渡りカメラマンアシスタントをしていた。

長年アシスタントというより、万年アシスタントだ。

有名カメラマンのチーフアシスタントを務めていると自慢していたが、10年以上経ってもそこから独立できず、低収入のため親元からも自立できないまま41歳になっていた。

 

結婚願望は無いと言っていたはずの彼女が結婚と出産を焦り始めたのは、38歳の頃だ。

彼女は遠距離恋愛中だったハワイ人の彼氏と結婚し、ハワイへ移住して子育てすると宣言した。

しかし、彼からのプロポーズを一度断っていた彼女がようやく結婚の意思を固めた頃、彼の方ではとっくに佳代子とは別れたつもりで、別の日本人女性と結婚していたのだ。

この独り相撲を掘り下げると話が長くなるので別の機会に譲るが、その後3年間も引きずるほどその失恋は佳代子にとって痛手だった。

それがようやく立ち直って、新しい出会いに胸をときめかせているのだ。

 

家庭への夢が破れた彼女の落ち込み様を知っていただけに、友人として「おめでとう。よかったじゃない」と新しい恋を祝福したいところだったが、続く彼女のセリフに懸念を覚えた。

「スリランカじゃね、彼のような空軍のパイロットは超エリートなのよ」

見栄っ張りな佳代子は、彼の人となりよりもまず、スリランカにおけるパイロットの地位の高さについて説明を始めたのだ。

その上で、そんなエリートの彼がどのように自分を見初め、口説いて来たのかを滔々と語り出した。

 

”彼がエリートだから好きなの?”

という質問は飲み込み、一先ず彼女の話を聞くことにした。

佳代子の話によれば、彼は佳代子より少し年上だということだ。貧しく保守的な国で、40代半ばのエリート男性が独身で居ることなどありうるのだろうか。

もしあり得たとしたら、彼は相当な遊び人か事故物件ではないだろうか。

 

「私とはほとんど歳が変わらないのに、彼ったらすっかり誤解してて、『僕は君の伯父さんくらいの年齢だよ』なんて言うのよ。うふふ」

人種の違う外国人の目から見れば、私たち東アジア人は一般的に若く見られるが、日本人の目から見た佳代子は年相応である。

彼女の方は彼に年齢を明かさなかったそうだが、若い女性と信じて佳代子をおだてる彼が実年齢を知れば、態度はどう変化するだろうか。

 

撮影現場で熱心に佳代子を口説いてきた彼に対し、恋愛に慎重な彼女はまだ心を許さなかったそうだ。

けれどFacebookで彼と繋がり、やりとりを続けるうちに次第に気持ちが盛り上がった佳代子は、一人でスリランカへ飛んだ。

もう一度会ったことで、彼に運命を感じた自分の直感は間違いじゃないとはっきり分かった。彼に観光案内してもらって本当に楽しかったし、夜は一緒に食事をした後ホテルまで送ってもらったわ。

まだ体は許していないけど、ホテルのドアの前でキスと愛撫をされて、彼に触られることが気持ちいいと感じることはちゃんと確かめてきた。

キスと愛撫をしながら彼が情熱的に「愛している」と囁いたと、ウキウキ話す彼女を前にして、私は肩透かしをくらった彼の心情に想いを馳せた。

わざわざ外国から自分に逢いにきた大人の女性がヤラずに帰るというのだから、彼がいかに驚いたかは想像に難くない。

 

彼はスリランカから出たがっていて、オーストラリアに移住を考えているのね。

オーストラリアで民間航空会社のパイロットをしたいと話してたわ。だから、彼と結婚するなら私もオーストラリアに移住することになるわねぇ。

と語る佳代子に、またもや危うさを感じた。

スリランカ人の彼とはまだ仕事で1回、プライベートでも1回会っただけで、交際どころかセックスさえしていないのだ。

なぜ結婚へと話が飛躍するのだろう。

どうやらプロポーズをされた訳でもなさそうだったが、彼があんなことを言った。こんなことも言ったとはしゃぐ彼女の中では、

 

彼と私の出会いは運命

彼は私に愛していると言った

彼は私に将来設計を語った

つまり彼は私との未来を考えている

結婚

 

という流れだったのかも知れない。

 

もし彼が2回会っただけの佳代子に結婚を仄めかしたのだとしたら、それは貧しいスリランカを出たい彼が、誰でもいいから金持ちの国から来た女を捕まえようとしているだけではないだろうか。

私が彼のような男性に口説かれたら、彼の目的はゆきずりの外国女との後腐れないセックスか、それとも日本人が持つ金なのかと身構え、もし結婚を求められたら、世界中どこにでも行ける日本国籍とパスポートが欲しいのではないかと疑うだろう。

一目惚れしやすいティーンエイジャーならまだしも、出会ったばかりで愛を囁く中年男の口先が信用できるはずがない。

 

そうは思っても、恋に浮かれる佳代子に水を刺すことはできなかった。

つい先日まで失恋の傷を引きずって、

「どんな男にもときめかない。別れた彼以外の男を好きになるなんて無理」

だと落ち込み、

「どうして彼と上手くいかなかったのかしら」

「どこで間違えたのかしら」

と考え続けていた彼女が、ようやく前を向こうとしているのだから。

 

その日は彼女の話を聞くだけ聞いて、余計な口は挟まずに別れた。

愛し合う恋人との結婚と、オーストラリア移住を間近に控えていると信じ込む彼女の自信に満ちた笑顔が、別れ際まで眩しかったからだ。

 

その後も、佳代子からはイカれた、いや浮かれた報告が続いた。

あれ以来彼とは会っていないが、毎日メッセンジャーで愛の言葉をやりとりしているそうだ。

痛ましくなった私は、

まあ、ともかくもう一度ちゃんと会って、体の相性も含めて愛を確認してきたら?

一度寝たら態度が変わるかも知れないし、変わらないならそのまま押しかけ女房しちゃいなよ。もし彼が、あなたが言うような素晴らしい男性なら、よその女に取られる前にしっかり自分のものにしておかないと、又泣きを見てしまうよ。

友人として彼女に幸せになって欲しかったからこその忠告だったが、佳代子には理解できなかったようだ。

はぁ〜…。あんたって本当に分かってないなぁ。会わなくたって寝なくたって、私たちは心から愛し合っているし、私は全然焦る必要ないんだって。彼がどれだけ私を愛してると思ってるの?

あんなこともこんなことも言ってくれて、こんな約束もしてくれてるんだからね。

と、心底呆れたと言いたげな返信が返ってきたことで、私の忍耐もついに限界を迎えた。

 

あ、そう。じゃ、ごめん。悪いんだけど、もう私に恋バナしてこないでくれるかな?私らって話合わないから。

佳代子はさぁ、今回に限らずだけど、彼氏のスペック自慢と彼が自分に何を言ったかの自慢しかしないじゃん。悪いんだけど、自分が彼のどんなところを好きかじゃなくて、彼の職業とか、金はいくら稼いでるって話ばかりされてもパートナーへの愛情を感じないね。

 

彼が私にこんなこと言ったあんなこと言ったって浮かれてるけど、あんたもう40歳(しじゅう)過ぎてんでしょ?いい加減男が何を言ったかではなくて、実際にどう行動したかで判断したらどう?そのスリランカ人はあんたに一度でも逢いに来た?

 

いい歳して自分の見栄と自尊心がいかに満たされるかばかり考えてんじゃないよ。自分が相手をどう幸せにしてあげられるかの発想は無いのかよ?

言いたいことを一気にぶちまけた私に対する彼女の返事は、

あなたからそんなことを言われると思わなかった。あなたこそ男がいかに自分に尽くしてくれるかを、いつも自慢していたじゃない。

おめー、そりゃ私が二十歳(はたち)ん時の話だろっ!

とツッコむ気力も、もう無かった。

 

私の方は20年近くの間に、泣いて笑って愛してを幾たびも繰り返し、結婚も出産も離婚もしたのだ。

バカだったのは認めるが、こんな私でも成長せざるを得なかったのだ、なめんなよ。

 

スリランカ人の彼から熱烈に愛されていたはずの佳代子は、結局、夢見ていた結婚もオーストラリア移住も実現しなかった。

何があったのかは聞かなくても分かっている。これ以上この女を引っ張っても見込みがないと判断されて、彼に相手にされなくなったのだろう。

 

佳代子が子宮系スピリチュアルに急速に傾倒していったのは、その失恋の直後からだ。

 

私が20代前半の頃に「ハッピーマニア」という漫画が人気を博していた。

私も同世代の友人たちと共に、恋の暴走列車シゲカヨやフクちゃんに共感し、腹を抱えて笑ったものだ。

あの頃の私たちはみんな、恋に恋して愛を愛して暴走していた。女の子同士で集まると、話題はいつだって恋愛だった。

彼氏が居ないのはカッコ悪いことだったし、幸せになりたくて仕方なかった。

 

その「ハッピーマニア」に続編が出ていると知ったのは去年のことで、早速単行本を買い求め、1ページ目から笑いが止まらなかった。

45歳になった専業主婦のシゲカヨは、ある日夫から「好きな人がいる」と離婚を切り出され、親友のフクちゃんは化粧品会社の女社長として大成功を収めるも、夫が愛人の元へと走り、息子は反抗期。腹いせに自分も浮気をしている。

 

コミカルに描かれたアラフィフ女性たちのシビアな現実が胸に迫って、たまらなく可笑しい。

読者だった私たちも歳を取り、今は皆それぞれに現実を踏みしめて、たくましく生きている。40年以上も女をやってきて、今では泣けることも笑い飛ばせるようになったのだ。

 

「ねぇ、後ハッピーマニア読んだ?笑っちゃうよね」と大学で同級生だった友人とLINEしながら、辛い現実から逃げてスピリチュアルに傾倒した佳代子を思った。

私は佳代子とも、「後ハッピーマニア」をネタに、大笑いできるようになりたかったな。

 


 

画像引用:国土交通省中部空港事務所 公式Webサイト

 

【著者】マダムユキ

ネットウォッチャー。

最高月間PV40万のブログ「Flat 9 〜マダムユキの部屋」管理人。

リンク:http://flat9.blog.jp/


 

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