静香さんは、35歳を過ぎた婚活中の女性だ。
私は自分より若い人に「上から目線」と煙たがられたくないし、「呪いをかける老害」だとネットで叩かれる中年に自分がなるのも嫌なので、人様の恋愛や婚活にはなるべく口を挟まないよう気をつけている。
とはいえ、婚活がうまくいかないと困っている静香さんを放っておくことはできなかった。
かつて職場の同僚だった彼女の相談に乗って、強く離婚を勧めたのは私だったからだ。その助言に従った結果、彼女はシングルに戻って婚活中なのである。
静香さんの背中を押し、離婚を決意させたことは正しかったと信じている。
彼女の元夫は買い物依存症の多重債務者で、しかも反省の色なく開き直っていたのだから。
彼に更生の意思が無い以上、できるだけ速やかに縁を切らなければ地獄しか待っていない。
本人はどうなろうと勝手だが、なぜ静香さんのように真面目に生きている善良な女性が、何の落ち度もないのに地獄の道連れにならなければならないのか。
そんな不条理を黙って見過ごすことは到底できず、私は彼女が離婚して実家に帰るまで何かと世話を焼いたのだった。
当時、静香さんの夫は駅前にある大手居酒屋チェーン店の厨房で働いていた。正社員ではあるが、飲食店の仕事は給与水準が高くない。
静香さんのパート代を合わせても、世帯月収は30万円に満たなかった。
それでも静香さんは幸せそうだった。
彼女は節約上手と言うより物欲が薄く、満足のいく生活をするために多くのお金を必要としない人なのだ。
贅沢には手を出さず、ファッションや美容にも一切お金を使わない。
生活費の中でも食費だけは自分のパート代から出していると話していたが、夫は勤め先で賄いを食べるため、自分は質素な食事をしながら収入のほとんどを貯蓄に回していたようだ。
ただ無目的に溜め込んでいたわけではない。静香さんには夢があった。
いつか子供を産み、マイホームを建てる。
独身時代からコツコツ続けてきた静香さんの貯金は、その「いつか」に備えた大切な軍資金だった。
慎ましい生活を送りながら夢のために貯蓄に励んでいた静香さんだったが、ある時から急に口数が減り、仕事中にぼんやりしている姿を見せるようになった。
私と目が合えば、何か言いたそうにするのに何度もためらい、結局は何も言わない。
こういう様子の人というのは深刻な悩みを一人で抱え込んでおり、その悩みは自分自身か家族の恥になる内容だということは経験上知っている。
彼女の悩みが何であるのか、私には目星がついていた。
「大丈夫?旦那さんの借金が発覚した?」
「えぇえっ。何で?何で分かったんですか?」
「こうなる予感がしていたから。以前、静香さんの旦那さんが車で迎えにきているのを見た時にピンときてた。随分高そうな車に乗ってるよね。
失礼なことを言ってごめん。あなたの旦那さんには身分不相応な車だと思ったわ。収入に見合っていないだけでなく、必要がない買い物でしょ。
まだ子供もいないし、休みの日は家でゲームしてると言ってたじゃない。片道15分の通勤に使うだけなのに、なんであんなに大きくて立派な車が必要なの?
あなたの旦那さんて見栄っ張りでしょう?
無駄遣いは車だけで済まないはず。浪費家なのに収入は少ないから、借金で買い物してるのよね?
私は親族に同じような人がいたから分かるのよ」
「…はい。実は…、私も前々からおかしいとは思ってたんです…」
静香さんの話によると、夫の借金が発覚したきっかけは、「車検代が払えない」と彼が言い出したことだったそうだ。
それよりも以前から、消費者金融からの利用明細や水道代の督促状がポストに入っていることがあり、静香さんは彼の懐具合に疑いを持っていた。
おかしいと思うことがあるたび夫を問いただすのだが、彼は背を向けて話し合おうとしない。そんなことを繰り返すうち、遂に破綻が訪れた。
複数の消費者金融から限度額いっぱいまでお金を借りた彼は、もはや借金で借金を返すこともできなくなったのだ。
年収は300万円台なのに、借金の総額は800万円を超えていた。ここまでくると自力で返済できる額ではない。
その解決のために、静香さんはすべきでないことをしてしまった。
夫の借金のうち、車のローンを静香さんが肩代わりし、残った借金は彼の母親に相談して、全額返済してもらったのだ。
「身内を見捨てられない気持ちは分かるけど、借金を肩代わりしてしまったら、あなたの旦那さんはまた買い物をするよ。
だって彼は今回のことで、『自分が働いて稼がなくても欲しいものが買える』『借金をしても、お金は他の人が自分の代わりに返してくれる』という成功体験を積んでしまったのだから。
大きな額の借金が一括で完済されたことで、逆に彼の信用枠は大きくなって、前よりも多額の借り入れができるようになってしまったんだよ。
静香さんが肩代わりした300万は返ってこないし、残った大切な貯金も遅かれ早かれ浪費家の夫の為に溶けていくでしょうね。
あなたが彼を支えて立ち直らせようとしても無駄。あなたの存在によって彼が満たされるのであれば、とっくに満たされているはずでしょ。買い物に依存したり借金作ったりしてないわ。
旦那さんに自分の問題と向き合って欲しいと願うなら、辛くても根性入れて見捨てるしかないのよ」
救いのないことしか言えなくて申し訳なかったが、それが私の見てきた買い物依存症患者のリアルだ。
静香さんは私の話に強いショックを受けたが、交際期間を含めて10年以上一緒にいた相手なのだから簡単には別れられないと、思い悩む時間が続いた。
しかし、待てど暮らせど夫からは一言の謝罪もなければ反省の様子もないので、最終的には身を切られる思いで夫に三行半を突きつけ、実家へと帰っていった。
「私は自分の人生を諦めていません。次は必ずいい人と結婚して、子供を産んで、幸せな家庭を築きます!」
そう言って旅立った静香さんを、私は「頑張ってね」と励まして見送ったが、現実は厳しいと思われた。静香さんも変わる努力をしなければ、夢は叶わないだろう。
案の定、離婚から一年以上が過ぎても婚活は難航している。
彼女からの久しぶりの連絡は、出会いを求めてマッチングアプリを利用し始めたが、上手くいかず、どうすればいいのか分からないという嘆きだった。こうなれば、高額な料金を払ってでも結婚相談所を頼ってみようかと考えているそうだ。
静香さんは間違いなく幸せになる資格がある人だ。けれど35歳をとうに過ぎているので、婚活市場では分が悪い。
彼女が「子供のいる家庭」を望むのであれば、同じ家庭像を求める男性とマッチングしなければならないが、そうした男性は妊娠適齢期の若い女性を希望する。
静香さんに年齢を重ねた女性なりの経済力やスキルがあればまだよかったが、子供を授かれば専業主婦になって子育てに専念することを望む彼女にキャリアはなく、自立できる収入はない。
元夫が調理師だったので、結婚生活を通して料理もあまりしておらず、強みとしてアピールできるほどの主婦力も身についていなかった。
であればこそ、せめてファッションとヘアメイクには気を使い、成熟した大人の色香を演出して戦いの場に挑むべきなのだが、それを口に出すのは憚られた。
現代では他人の年齢や容姿に言及するのは禁忌である。
私はポリコレに頭と口が縛られて、せっかく連絡をくれた彼女に適切なアドバイスが何もできなかった。
本当は、
「昔のあなたがありのままでも彼氏ができたり結婚もできたのは、若かったからよ。今はもう若くないんだから、そのままじゃダメ。
美容やファッション代をケチるのはやめて、高くてもいいヘアサロンに行きなさい。
慣れない化粧は百貨店の美容部員さんから手ほどきを受けて、ちゃんとメイクアップして。
メガネを外してコンタクトにするのは必須。
35歳を過ぎているのに、いつまでも学生みたいな格好をしないで。
上半身は薄いのに下半身にはしっかり肉がついてるあなたの体型をカバーしてくれるのは着物しかないんだから、初回のデートはお見合いと思って和装一択!
帯を締めれば背筋が伸びて、その猫背と巻き肩も誤魔化せるよ!
あと、専業主婦を目指してるなら料理もしてね!」
と言いたいのだが、ことごとく口にできない…。
けれど、
「焦らなくても大丈夫。外見よりも大切なのは中身なんだから。あなたの良さを分かってくれる人にきっと出会うわよ」
なんて気休めも言えなかった。
無責任な慰めを真に受ければ、彼女は虚しく歳をとってしまうだけではないか。
令和になってどれほどボディポジティブが叫ばれ、ルッキズムやエイジズムが否定されようとも、静香さんの求める幸せが「結婚したら夫に養われ、専業主婦になって子育てをする」という昭和的ノスタルジーの中にある以上、女性として求められる資質と魅力も昭和の価値観に合わせなければどうにもならない。
それを口に出して指摘できないのは、私が時代に振り回される中途半端な女だからだ。
インドネシアの大統領夫人となり、パリの社交会では「東洋の真珠」と讃えられたデヴィ夫人の婚活論をまとめた本がある。
・男性が求めるのは美貌よりも女らしさ。婚活のためにはメイクやファッション、ヘアスタイルも女っぽさが大切。
・男は褒めて、おだてて、甘やかす。お芝居でいいの。
・男性の前で強さを見せてはいけません。弱くて可愛い女を演じること。
何でも分かっていても、あえて知らないふりをして彼の機嫌を良くさせて。その小さな積み重ねが何よりも大切です。
など、デヴィ夫人の経験則に基づいた「女が幸せになるための極意」が列挙されている。一般人が口にすればポリコレ棒で叩きのめされそうなことしか書いていないが、
「バカバカしいなんて思った人はいらっしゃるかしら?
あら、こんなことは選ばれる女はみなさん真剣にやっていることですわね」
そうビシッと言い切れる強さが眩しい。
そのうえで、
「婚活に疲れても、幸せからは逃げないで」
と説くのだから、なかなか沁みるではないか。
デヴィ夫人くらい突き抜けた生き方をしていれば、時代の価値観なんぞに左右されず、自分の信念ではっきりものが言えるのだ。
とても真似ができない私は、歯切れ悪くモゴモゴするばかり。
結婚相談所で静香さんの婚活が上手くいくならそれに越したことはないが、もしも又「婚活がうまくいかないんです」と連絡がくるようなことがあれば、次はデヴィ夫人の本を勧めてみようと考えている。
【著者】マダムユキ
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